東1ホールでちょっと風変わりな格好をしたマネキンを見つけたら、そこがウェアラブルコンピュータ研究開発機構(チームつかもと)のブースだ。「チームつかもと」は、神戸大学の塚本昌彦教授が中心になり、企業や研究機関が集まった非営利団体である。このブースでは、ウェアラブル・コンピュータを使って、近未来のコンピューティングの姿を見せてくれる。

 展示の軸となっているのは「5つの大予言」。ウェアラブル・コンピューティングの未来を大胆に予想し、それぞれの姿を実際に見せているのが特徴だ。どの展示にも共通しているのが、2つのポイントを非常に重視していることだ。1つは、それを使うことでどれだけのメリットが得られるか。もう1つは、いかにファッション性を損なうことなく身につけられるか---である。

 例えば予言1、「ウェアラブル・デジカメは2年以内に流行する」。ウェアラブル・デジカメとは、メガネに装着する小型ディスプレイ(ヘッドマウント・ディスプレイ:HMD)をデジタルカメラに接続し、撮影中の画像を確認するというもの。ごった返す運動会の観客席から、自分の子どもの様子を撮影したいお父さんを利用者に想定している。カメラを高く持ち上げても画像はHMDで確認できるので、これまで撮影できなかったような動きも撮影できるようになり可能性を秘めている。HMDは一般のメガネやサングラスの表面に貼り付けられるので、外見上もそれほど不自然にならない。

ウェアラブル・デジカメ。デジタル・ビデオカメラを高く持ち上げて撮影している

 予言2の「ウェアラブル・ケータイは3年以内に流行する」は、若い女性のユーザーを想定したものだ。携帯電話で長いメールを打ったりテレビを視聴する場合、現在の携帯電話が備えているディスプレイでは見やすさに難点があり、持ちやすさの面でも不満が出てくる。そこで、予言1と同じくHMDをサングラスに付け、携帯電話の画面を見るという使い方を提案した。これは2005年の3~4月をめどに製品化も進んでいるという。価格は数万円程度になる予定だ。

HMDは実際に身につけて試すことができる。サングラスの表面に張り付ける

 この2つの予言は個人利用を見越したものだが、残りの予言は「外界とのインタラクション」を目的としている。

 予言3は、環境とのインタラクションを目指している。「5年後にはウェアラブル端末を使って、さまざまな場所でユーザーが必要とする情報を受信できるようになる」というものだ。

 一方で予言4と5は、他の人とのインタラクションを想定している。予言4は「10年後には子どもは外で鬼ごっこゲームをするようになる」。今は屋内でゲームに夢中になっている子どもたちも、センサーや通信装置を身に着けて外で元気よく遊ぶようになるだろうという予想だ。そして予言5は「10年後、赤ちゃんもHMDをつけるようになり、親とのコミュニケーションをとるようになる」。例えば、ベビーベッドに寝ている赤ちゃんが、ベランダで洗濯物を干すお母さんの顔をHMDで見る---といったシーンを想定しているのだ。もちろんお母さんも、赤ちゃんの様子を常に確認できる。

 このうち特に興味深かったのが、予言3の実例として展示されていたデモ。現実とデジタル情報とを融合して見せるというもので、鈴鹿サーキットで実施された実際のレースの模様を、HMDで確認できる。特徴は、鈴鹿サーキットのコースが描かれたパネルという現実世界のモノと、バイクの動きというデジタルデータを重ね合わせていること。パネルをHMDで見ると、コースの上に走行中のバイクの動きがアニメーションで表示する。

 「これを応用すれば、いたるところで情報サービスを提供することが可能になる。例えばセールをしているお店に視線をやると、お店にセールの情報が重なって見える、といったことができる」(システムを開発したウエストユニティスの福田登仁代表取締役)。今後のさらなる展開を目指して、研究開発を進めていく予定という。

鈴鹿サーキットのコースが描かれたパネル。HMDを着けずに見るとただの図にすぎない

HMDを着けてパネルを見ると、このような映像が表示される。青い物体がバイクを示している

 ファッション性という意味では、ノートパソコン専用のショルダー・バッグも注目を集めていた。「ノートパソコンを持ち歩く女性の多くが、よいバッグがなくて困っている」(同機構の事務局を務める橋本昌隆氏)。そこで、ふたを閉めればそのままショルダー・バッグになるようなケースを開発した。今回ブースでは、松下電器産業の「Let'snote R3」用のバッグ100点を限定発売している。詳細は、Webサイトhttp://www.philosophica.jp/ で確認できる。

ノートパソコン専用ショルダー・バッグ。一見するとごく普通のバッグのように見える

バッグを開いたところ。「Let'snote R3」が姿を現した


(八木 玲子=日経バイト)