「これからの世界を決めていくのは,ソフトウェア開発者である我々だ」。2004年10月7日から開催されている日本IBMの開発者会議「IBM Rational Software Development Conference」の基調講演で,会場を埋めた開発者に対してGrady Booch氏は語りかけた。Booch氏はUML(Unified Modeling Language)の生みの親の一人として知られ,現在は米IBM社のフェローとして活躍している。

 Booch氏の基調講演のタイトルは「ソフトウェア開発の未来」。その骨子は,これからの世界はソフトウェアへの依存がますます進み,ソフトウェアなしでは何もできないようになる。そのソフトウェアを開発する立場にある我々の手に,未来がゆだねられているというものだ。

 Booch氏はまず,10年単位でソフトウェアの未来の姿を示した。それによれば,2010年は「透明性の時代」になる。日常のさまざまな場面でソフトウェアが動作しているが,それがユーザーには見えなくなる時代だ。ユーザーは,ソフトウェアを利用していることをまったく意識しなくなる。さらに進んで2020年には「完全な依存」が始まる。人々は,生活のほぼすべてをソフトウェアに依存するようになるというのだ。そして2030年には,あらゆる機器にソフトウェアが埋め込まれる「埋め込みデバイスの時代」が到来するという。

 次にBooch氏は,2031年を想定してさらに具体的な予見を披露してみせた。氏はまず,このとき世界全体がどうなっているかを細かく説明することから始めた。「社会は,さまざまな分野が調和しながら進化していく。ソフトウェアの未来を考えるうえでは,他の分野が今後どうなるかを考えなければならない」からだ。例えば2031年の社会構造については「商取引のオンライン化により,貿易圏は飛躍的に拡大する。グローバル化がますます進むだろう。同時にセキュリティが今以上に重要になり,バイオメトリクス認証が普及する」。エンタテインメント分野では「本は電子化されているだろう。またコンテンツがどこにあるかを意識せず,世界中どこでも楽しめるようになる」。戦争は「国家対テロリストの争いは相変わらず起こっていると考えられる。自動化も進み,遠隔地から武器を操るようになるだろう」。

 ここで論を戻し,2031年のソフトウェア開発を予想してみせた。まずプラットフォームに関しては,ほとんどのソフトはデバイスの中に組み込まれ,見えなくなるという。言語については「XMLやJava,UMLといった技術は残り続けるだろう。ただし主流になるのは,アスペクトという考え方。また今のように汎用的なものでなく,そのシステムが対象とする領域(ドメイン)に特化したフレームワークが広く使われていくようになる」。OSは「OSそのものはコモディティ化し,OSでビジネスをすることは価値ではなくなる。主戦場はミドルウェアへとうつっていく」。開発面では,各ドメインの専門家がこれまでよりもソフトウェア開発に参加するようになるであろうと述べ,開発ツールもチームで使うことを意識したものに変わるだろうと予測した。最後に「The world runs on software(世界はソフトウェアの上で動く)」という言葉で講演をまとめた。

(八木 玲子=日経バイト)