次期Windows「Longhorn(開発コード)」一色となったMicrosoft PDC 2003。PDC版のLonghornを配布し,新API「WinFX」を単に紹介するだけでなく実際に試せるように配慮している。このような現実路線ばかりではなく,Longhornの先を感じさせたセッションもあった。Microsoft Research(MSR)のRichard Rashid上級副社長の基調講演だ。Rashid氏はマイクロカーネル「Mach」の開発者として有名。現在研究を進めているテーマのうち,プレゼンテーション,ストレージ,コミュニケーションの3分野における次世代技術を披露した。

 まず,ユーザーの視覚に訴えるプレゼンテーション機能では,グラフィックス・コントローラと本体CPUの役割分担が話題となった。「グラフィックス・コントローラはもはや画像をそのまま描画するだけのものではない」との考えからだ。グラフィックス・コントローラが演算処理を多用してフォントをレンダリングしたり,粗いポリゴンを精緻なテクスチャに仕立てたりする技術を紹介した。デモして見せたのは,波立つ水面に写り込む光の屈折と反射を秒間60コマのリアルタイム処理で再現したシミュレーション・プログラム。表現の幅を広げることで「提供するユーザー・インタフェースの選択肢を増やせる」(Rashid氏)という。

 続いてRashid氏はストレージ技術の研究成果として1998年に発表した地図データベース「TerraServer」に軽く触れた後,SQLデータベースの権威として知られるMicrosoft Scaleable Servers Research GroupのJim Gray氏を壇上に招いた。Gray氏は,全世界の天文学データを収めた分散データベースを構築する「SkyServer.org」プロジェクトと,SkyServer.orgのサーバー群をWebサービスで連携させる検索サーバー「SkyQuery.NET」プロジェクトを発表。SQL Serverを使い現時点で30億レコードを保有するデータベースを構築したという。

 再びRashid氏が壇上に戻ると「social computing」を提唱。人の人生を追体験できるだけのブログ,メール,写真をデータベース化し,それぞれの関係を可視化するアプリケーションをデモして見せた。デモを担当したMSR Senior ResearcherのLili Cheng氏は「Longhornのチームと多くの作業を共にした」という。WinFSを利用したLonghornのユーザー・インタフェースに研究の成果が反映されていることを示唆した。

 最後に,現在取り組んでいる最新の研究テーマとして,同社がSPOT(Smart Personal Objects Technology)と呼んでいる小型の通信機器と,タブレットPCを使った教育を紹介した。SPOTは「.NET構想が波及する領域を広げる」(Rashid氏)ハードウェアとして,腕時計や携帯ラジオといった人が持ち歩くデバイスを対象にMicrosoftが開発を進めている技術。MSRはSPOTのOSを担当しており,.NET Frameworkの極小サブセット「"tiny" CLR for SPOT devices」の開発を進めている。動作周波数が27MHz以下のARMプロセサ,512KバイトのROM,8Mバイトのフラッシュ・メモリが動作条件となるCLRだという。すでに仕様を明らかにしているSPOT向けCLRでは,CPUが同じく27MHz以下,ROMは384Kバイトでフラッシュ・メモリが1Mバイトであることから考えると,MSRはより多機能なSPOT向けCLRの開発を進めているようだ。

 基調講演を締めくくったタブレットPCのデモは,手書き文字で入力した関数がグラフとして描画され,棒とボールを描くと物理法則に従って画面内を動き回るというものだった。「y=ax^2」や「y=ax^3」と描くとそれぞれ二次曲線と三次曲線が描かれた。ボールと棒を画面内に描くと,画面の下の方に落ちていくボールが棒に当たって跳ね返りながら画面下に落下していく。プログラミングのサンプルとしては教科書的な内容ながら,タブレットPC向けアプリケーションの可能性を予感させるものとして参加者の喝采を浴びていた。

(高橋 秀和=日経バイト)

米Microsoft社