「情報はばらばらに格納されている。検索の操作もアプリケーションごとに違う」。米Microsoft社会長兼チーフ・ソフトウェア・アーキテクトのBill Gates氏は現在のWindowsの問題点をこう指摘した。この問題点を解消すべく,同社が開発を進めているのがデータベースを使った新ファイル・システム「WinFS(開発コード名)」である。2003年10月27日,米ロスアンジェルスで開催中のWindows開発者向け会議「Professional Developers Conference 2003(PDC 2003)」初日の基調講演は,WinFSが主役を演じた。

 2006年出荷見込みの次期Windows「Longhorn(開発コード名)」では,マイドキュメント・フォルダをWinFSの管理下に置く。これまで音声ファイルは「マイミュージック」フォルダに,画像データは「マイピクチャ」フォルダにと,ユーザーが階層構造を意識して管理していた。WinFSでは格納したファイルが持つ音声や画像といった属性情報で管理できる。「スタック」と呼ぶ仮想的なフォルダを動的に生成して表示する。WinFSへのクエリーがフォルダとして,クエリーの結果がファイルの一覧として見えるイメージだ。一つのフォルダに対して複数の操作も可能だ。例えば,Gates氏に関連する情報をまとめた仮想フォルダ(Gates氏の顔写真が表示されている)を右クリックして「Show Communication history」を実行すると,Gates氏が作成したメールやFAX,作成したドキュメントなどが一覧表示される。

 検索の対象となるのはローカルのファイルに限らない。Webサービスを通じてネットワークに接続した他のパソコンのファイル(こちらもWinFS配下でなければならない)と関連付けることができる。WinFSは同社の次期SQL Server「Yukon(開発コード名)」を核にしており,Webサービスとの情報交換やデータの同期といった基本機能はYukonと同じものが利用できる。

 もっとも動的に仮想的なフォルダを生成する作業はコンピュータにかかる負荷が大きい。そのためLonghornでは,マイドキュメント・フォルダのみWinFSで管理する。Gates氏は2006年には動作周波数が4G~6GHzのデュアルコアCPU,2Gバイト超のメモリー,1Tバイト超のハードディスクが一般的になり,この制約がなくなるとの見解を示した。

 WinFSを除けば,Gates氏の講演に目新しい点はあまりなかった。セキュリティ重視の開発姿勢を強調したが,現段階ではファイア・ウォール機能をデフォルトで有効にしたWindows XP Service Pack 2のベータ・テストを2003年内に,リモート・アクセス時のクライアント認証機能を強化したWindows Server 2003 Service Pack 1のベータ・テストを2004年前半に,それぞれ開始すると明かしたのみ。Longhornで搭載予定の情報漏洩を防ぐ新動作モード「Next-Generation Secure Computing Base (NGSCB)」についてはほとんど触れなかった。NGSCBはハードウェアとの連携が重要なので,大々的なデモは2004年5月のハードウェア開発者会議「WinHEC 2004」が発表の場になりそうだ。

(高橋 秀和=日経バイト)

米Microsoft社