「現状のExtreme Programming(XP)に欠けているのは,顧客の要求を正確に把握するためのプロセスだ。この部分は建築に学ぶべきだ」。アジャイルプロセス協議会が開催した設立記念セミナーで,同協会の会長である羽生田栄一豆蔵取締役会長は力説した。アジャイルプロセス協議会とは,アジャイル(敏捷,機敏の意)なソフトウェア開発手法の普及や促進を目指して2003年2月1日に発足した団体。2003年7月9日に設立総会を実施し,その一環として記念セミナーを開催した。

 アジャイルな開発手法には,XPを始め,FDD(Feature-Driven Development)やCrystal,Scrumなどの手法がある。どれも顧客の要求や開発プロジェクトの状況などの変化に柔軟に対応することで,短期間で品質の高いソフトウェアを開発することを目的としている。しかし羽生田氏は,「現状のアジャイル手法は,複雑で変化しやすい顧客の要求をまだまだ甘く見ている」と指摘した。例えばXPでは,顧客の要求通りのシステムを正しく開発するために,顧客がシステム開発の現場に常駐することを推奨している。だが「システムのユーザーは一人ではない。システム開発の現場にいる顧客が,すべてのユーザーの要求を把握しているわけではない。しかも,ユーザーがたくさんいればさまざまな価値観が存在し,相反する要求が出てくることもある」(羽生田氏)。

 この問題に対する解決策として羽生田氏が提案するのが,建築分野で使われている手法である。さまざまな人が利用する建築物を建てる場合,ワークショップなどを開いて人々の意見を集め,そこから一つの合意を導き出して設計に反映する。そのために誰にでも理解できる表現で建築物を表し,話し合う。結果として建築物の利用者同士や設計者,施工者が共通のイメージを持つことができる。羽生田氏は,ソフトウェア開発はこれを参考にすべきだと言う。顧客や開発者がシステムの全体像を具体的にとらえ,共有するための仕組みを今後考えていかねばならないと述べた。具体的な手法は示さなかったが,「目に見える,体で触れる,など,ソフトウェアのアーキテクチャを何らかの形で体で感じられるようにすることが大切なのではないか」(羽生田氏)と提言した。

(八木 玲子=日経バイト)

アジャイルプロセス協議会