「Everyone,Everything,Everywhere,Everytime」。会場を埋め尽くす聴衆にこの言葉を2回繰り返させたあと,米Sun MicrosystemsのJonathan Schwartz上級副社長は言った。「これは決して夢物語じゃない。Javaの将来像としてあり得る姿だ」。2003年6月10日(米国時間),米サンフランシスコで始まったJavaの開発者会議「2003 JavaOne conference」の一幕である。「Java is Everywhere」と題した基調講演でSchwartz氏が強調したのは,Javaを一般消費者の手に届けること。これにより,「さらに大きなマーケットを狙っていく」(Schwartz氏)。

 Javaは,既にWebアプリケーション以外のさまざまな分野でも使われ始めている。ICカードにJavaを組み込んだ「Java Card」や,携帯電話で動作するJavaなどだ。まずSchwartz氏は,具体的な数値を示してこの現状を説明した。「Java Cardは現状で3億枚使われている。また1760万人の人々が,82億時間もの時間をJavaでゲームをしている。1ユーザーあたり,1日に70分使っている計算になる」(Schwartz氏)と,Javaがいかに一般消費者に使われるようになっているかを語った。現状でも,53の通信事業者がJavaを使ったサービスをユーザーに提供しているという。開発者数の多さにも言及した。現状でJavaの開発者は全世界で300万人,ユーザーグループは500あるという。

 この状況は,今後さらに拡大していくという。「今後6ヶ月で,Javaが動作する携帯電話を2億5000万台増やす」(Schwartz氏)。ここでは英Vodafone Global Content Services社のCEOであるGuy Laurence氏が壇上に上がり,すでに普及している日本だけでなく,欧米でも携帯電話でJavaが普及するだろうと述べた。新たなJavaの適用領域についても説明があった。医療システムという,命に関わるミスの許されないものを,Java2D,JiniなどJavaのさまざまな技術を使って構築した事例が紹介された。

 Javaを一般消費者になじむものにするため,Javaのロゴを新しくすることも発表した。PDAや携帯電話など,Javaの技術が搭載された機器にこのロゴを付け,一般消費者の認知度を上げる作戦だ。ロゴの認定に関しては何らかの基準を設け,それをクリアした製品にロゴを適用する。

 ただし,Javaを一般消費者にも使われる技術にするには,Javaの基礎技術であるJ2SE(Java 2 Platform, Standard Edition),企業向けのJ2EE(Java 2 Platform, Enterprise Edition),組み込み機器向けのJ2ME(Java 2 Platform, Micro Edition)のすべてのプラットフォームを一つにし,さまざまな端末に向けてさまざまなサービスを提供することが必要になる。そのためには,Javaによるソフトウェア開発が容易にならなければならない。この点は,Schwartz氏からマイクを譲られたSunのソフトウェア担当CTOであるJohn Fowler氏が説明した。彼が特に強調したのは,ソフトウェア開発における開発ツールの重要性である。「ツールが強力になることで,開発作業はシンプルになり,結果としてJavaの開発者が増える」というのだ。

 ここで,新たなスタイルのJavaの開発ツールが紹介された。ツールの作者は米Oracle社のTed Farrell氏である。Farrell氏は,ボタンやテキスト・ボックスなど,Webアプリケーションのユーザー・インタフェースをコンポーネント化した開発ツールを披露した。これを使えば,Visual Basicのように,コンポーネントをドラッグ・アンド・ドロップしてアプリケーションを開発できる。Farrell氏が開発したツールは,現在JCPによって仕様策定が進んでいるJavaServer Faces(JSF)というフレームワークを利用して作られている。JSFは今後のWebアプリケーションのユーザー・インタフェース開発の標準となる可能性が高い。Sun自体もJSFを使った開発ツール「Project RAVE」を開発中であるという。これは明日の,SunのRichard Green副社長による基調講演で披露されることになりそうだ。

(八木 玲子=日経バイト)