大日本印刷NTTサン・マイクロシステムズは,書籍や雑誌にICタグを付けて単品管理などができるようにしたシステムを試作した。購入した書籍をカバンの中などに入れて持ち歩いた際に,書籍のタイトルなどが第三者に知られないようにしたのが特徴である。暗号化したIDをICタグに割り当てることで,読み取られても内容が分からないようにした。試作システムは,東京ビックサイト(東京・中央区)で2003年4月24日から始まった「東京国際ブックフェア2003」(27日まで開催)で展示している。

 ICタグは,メモリーと簡単なロジック回路を持つ“ゴマ粒”大のICチップにアンテナを付けたもの。個々の書籍に固有のIDを付けて効率的な管理ができるようになる。一方でプライバシーの保護に懸念がある。ICタグ付きの書籍を購入者が持ち歩いた際に,第三者にそのタイトルなどを読み取られる恐れがある。IDには,現行のバーコードと同様に出版社や書籍名のコードが埋め込まれているからである。

 それを避けるために今回の試作システムでは,IDを暗号化してICタグに書き込んだ。復号は,IDを一元管理するセンターでしか実行できない。復号したIDを入手するには,センターへのアクセス権を持つICタグスキャナが必要になる。第三者がスキャナでIDを読み取っても,センターにアクセスできなければ書籍の名前などは分からない。この仕組みはNTTが開発した。

 IDの暗号化技術には公開鍵暗号方式を採用した。これは暗号鍵の管理を容易にするためである。一つの鍵を使う共通鍵暗号方式を採用すれば,IDを暗号化する出版社とセンターの両方が共通鍵を安全に管理する必要が出てくる。公開鍵暗号方式なら,出版社は公開鍵でIDを暗号化できる。公開鍵なら公開してもかまわないので管理は容易になる。秘密にすべき秘密鍵は,センターの一カ所で管理すれば良い。

 ただし公開鍵暗号方式にはデメリットもある。暗号化したあとのIDサイズが一般に大きくなることだ。例えば96ビットのIDをRSAで暗号化すると「1000ビット程度になる」(NTT情報流通プラットフォーム研究所情報セキュリティプロジェクト セキュリティ社会科学グループの木下真吾 研究主任)。IDが大きくなれば,ICタグのメモリー容量が増やす必要があり,ICタグのコストが高くなる。そこでNTTは,暗号化したIDのサイズが小さくて済む楕円暗号(El Gamal)を採用した。楕円暗号だとサイズは「160~320ビットで済む」(木下氏)と言う。

 ICタグに埋め込むIDのフォーマットは,米MIT(Massachusetts Institute of Technology)大学が中心となって設立された「Auto-ID Center」が規定するEPC(Electronic Product Code)を採用した。試作システムでは,EPCを読み取り書籍の属性などを調べるソフトウェア「Savant」を利用。Savantを使い,書籍取次ぎ業者や書店が無線で検品できるようにしたり,書店の書棚で単品管理ができるようにした。書棚にスキャナを置いて,書籍が手に取られた回数や,立ち読みされた平均時間などを調べられる。

 書籍業界では,ICタグ・ベンダーやシステム・ベンダーなど約80社とともに「ICタグ技術協力企業コンソーシアム」が2003年3月19日に発足された。すべての書籍にICタグを付けることを目指して動き出している。3社は今回の試作システムにより,ICタグの有用性を書籍業界にアピールしたい考えである。

(安東 一真=日経バイト)