KDDIと沖縄セルラーは2003年1月29日,米Qualcomm社が開発した携帯電話向けのアプリケーション・プラットフォーム「BREW」を導入すると発表した。従来のJavaサービスと同じく,携帯電話でアプリのダウンロードが可能になる。東芝が開発したBREW対応携帯電話「A5304T」(写真)を同年2月下旬に発売するのと同時にサービスを開始する。

 今後発売されるKDDIの携帯電話の約7割がBREWに対応する。同社は現在Javaサービス「ezplus」を提供しているが,事実上,BREWにシフトする。ezplusは高級機しか対応していないが,BREWはGPSなどの機能を持たない低価格な実用機も対応する。ezplusはJavaを実行するためのバーチャル・マシンなどを用意しなければならないのに対し,BREWはKDDIの携帯電話全機種が採用しているQualcommの通信チップが内蔵する機能であるため,そのまま対応できるからだ。

 同社携帯電話の年間販売台数は約1000万台。このうち半数を占める約500万台の実用機は今後すべてBREWに対応する。一方,高級機のBREW対応は半数弱の約200万台にとどまる見込みだ。Java専用のアプリケーション・プロセッサをQualcommの通信チップ以外に搭載する機種が存在するためである。ezplus対応携帯電話はすでに約400万台存在しており,コンテンツ・プロバイダにとっては,他社のJavaアプリケーションを移植できるという利点もある。このため,ezplusもBREWと並行して提供していく。ezplusとBREWの両方に対応する携帯電話は2003年秋ごろに登場する見込みだという。

 BREWをezplusなど従来のJavaサービスと比べた場合の利点は,アプリケーションの動作速度だ。JavaアプリケーションはJavaバーチャル・マシンを介して動作するため,Java専用のプロセッサを搭載した携帯電話以外では,起動に時間がかかるうえ動作速度も遅い。一方,BREWアプリケーションは,C/C++で開発し,Qualcommチップが直接実行できるバイナリとして配布するため,アプリケーションの起動や動作速度が速いという利点がある。

 反面,BREWでは従来のJavaサービスとは異なり,一般ユーザーがアプリケーションを開発/配布することはできない。アプリケーションの提供者はKDDIと契約し,KDDIがアプリケーションを検証したうえでダウンロード・サービスを提供する。BREWでは携帯電話端末の深い機能まで利用できてしまうため,セキュリティ確保のためこのような体制を採る。事実上,「個人が開発したアプリケーションの配布は難しい」(同社ソリューション事業本部コンテンツビジネス部の高橋誠部長)。つまり,BREWでは無料の草の根アプリは期待できず,有料のコンテンツが中心になる。

 当初,ダウンロードできるのは,コミュニケーション,ゲーム,情報提供など20種類程度のアプリケーション。A5304Tには,地図ナビゲーション・アプリ「NAVITIME」,文字アートやアニメーションのメールが送れる「ハートメール」,コミュニケーション・ツール「Team Factory」の三つのアプリケーションがプリインストールされる。提供されるアプリの数は,BREW対応携帯電話が増えるのに合わせて拡充される見込み。

 A5304Tには「アプリ」というボタンが搭載される。このボタンを押すとBREWメニュー(写真)が表示され,起動するアプリをアイコンで選択する。アプリボタンを長押しすると,あらかじめ指定しておいたアプリケーションが起動する。なお,A5304Tはezplusには対応していない。

 アプリ一つ当たりの容量制限は,プログラム領域とデータ領域を合わせて200Kバイトまで。A5304TのBREW領域は1.2Mバイトで,プリインストールされているアプリが約700Kバイトを占めるため,新しくダウンロードできるアプリの数は3~4個になる。プリインストール・アプリをユーザーが消去して空き容量を増やすこともできる。将来的に,より大容量のBREW領域を持つ携帯電話が出てくれば,200Kバイトという制限が緩和される可能性もあるという。

 KDDIはビジネス用途でもBREWの普及を目指している。そのために日本IBMと共同で「BREW Business Profile」というBREW上で動作するミドルウェアを開発した。2003年春に提供を開始する。IBMのサーバー用ミドルウェア「WebSphere Everyplace Access」と組み合わせることで,企業システムを構築できる。具体的には,データをあらかじめ携帯電話にダウンロードしておき後に閲覧できるオフライン・ブラウジング機能,携帯電話で入力したデータをまとめてアップロードできるオフライン入力機能,携帯電話にダウンロードしたデータとシステムとのデータシンク機能,センターから呼び出しで携帯電話のアプリケーションを起動できる機能を提供する。

 同社は,韓国ですでにBREWサービスを行っているKTF,中国でBREWサービスの提供を予定している中国聯合通信,Qualcommの4社で「BREW Operator Working Groupe(仮称)」を発足することも発表した。BREWの普及促進,各社間のアプリの移植,BREWの仕様統一を目的とするという。

(大森 敏行=日経バイト)