日本音楽著作権協会(JASRAC)と日本レコード協会(RIAJ)は2003年1月22日,電子透かしを埋め込んだ音楽データの実用試験を行ない,有効性を確認したと発表した。この実験は2002年末に実施した。

 電子透かしは元データに影響を与えることなく,コンテンツに製作者の情報などを埋め込む技術である。埋め込んだ情報は,コピーしたデジタルデータだけでなく,デジタルを複製したアナログデータからも取り出せる。

 今回行った実験はJASRACとRIAJで異なる。JASRACはインターネット上にある音楽データから,電子透かしをきちんと取り出せるかを検証した。

 JASRACは電子透かしを埋め込んだ音楽CDをMP3データに変換し,このファイルをインターネットのWebサーバーにアップロード。同時に,同協会が保有する著作物データ監視システム(J-MUSE)と電子透かしソフトを連携動作させた。

 J-MUSEは1カ月に約540万のデータをインターネットからダウンロードする能力がある。電子透かしソフトは,ダウンロードしたファイルに電子透かしが埋め込まれているかを検査した。電子透かしには日本IBM,エム研,マークエニー・ジャパン,日本ビクターの4社それぞれの技術を使い,各社方式で3曲ずつ,計12曲の楽曲で実験した。

 検証の結果,ダウンロードした多数のファイルの中から,電子透かしが埋め込まれたデータを正確に検知し,埋め込みデータもきちんと取り出せたという。JASRACによると,方式の違いによる誤認識がないことも確認できたという。

 一方,RIAJはラジオ放送で流れた音楽から,埋め込んだ電子透かしを抽出できるか検証した。エフエム東京,エフエム大阪の放送で実施した。

 実験では,特定の放送楽曲のデータに電子透かしを埋め込み,これを受信側で抽出した。また,(1)データ作成時に,電子透かしデータと著作者,曲名を関連付けたデータをデータベースに登録,(2)受信したデータから電子透かしの情報を抽出し,著作者/曲名をデータベースから取り出し,放送時間を記録する――という一連のシステムも試験した。

 曲を流しながらDJが話すなど曲の間でノイズが加わった個所では認識率が落たが,100%の確率で楽曲の照合はできたという。認識できなかった個所は,DJやゲストが大きな声で話し,曲がほとんど聞えない場面だったという。

 両協会とも,今回の実験結果から「電子透かしは実用できる」と結論付けた。今後は,音楽データがインターネットでコピーされる頻度や,放送局での利用頻度を把握するために利用したいとしている。また,不正コピーの抑止にも効果が高いと期待している。

(中道 理=日経バイト)

【おわびと訂正】
記事掲載当初,JASRACの実験で「CofirMedia」を利用したとありましたが,これは誤りでした。実際には,日本IBM,エム研,マークエニー・ジャパン,日本ビクターの4社の技術で実験がされました。「CofirMedia」はRIAJの実験で利用されました。また,5段落目の「100%の確率で電子透かしの情報を認識できたが,ノイズが加わった個所の認識率が落ちた」という表現に対して矛盾を感じるというご指摘をいただきました。そこで,「ノイズがあると認識率は落ちたが100%の確率でデータベース照合ができた」といった表現に改めました。おわびして訂正させていただきます。