三菱電機は2002年11月14日,伝送距離87kmの量子暗号通信に成功したと発表した。同社によると,87kmは米Los Alamos National Laboratoryの48kmを抜き,世界最長になるという。

 量子暗号通信はデータのやり取りに光の最小単位である光子を使う。0と1のビット列を光子の状態に置き換える。光子は光ファイバを使って送信し,受信者側で光子を検出する。今回,(1)長距離の光伝送に適した1550ナノmの長波長帯を使う,(2)光子検出器の精度向上,といった取り組みで伝送の長距離化に成功したという。いままでは,2000年に1km,2002年中頃に59kmを実現していた。

 量子暗号通信は仮に経路上で光子を盗聴されても解読される危険性はなく,何者かが光子の盗聴を試みたことを検出できる。ただし伝送速度は最大でも数kビット/秒とかなり低速になるので,現時点では暗号鍵の受け渡しに使うのが現実的と見られている。今回,三菱電機は87kmを7.2ビット/秒の速度で伝送するのに成功した。

 同社は発表会場で報道陣向けにデモンストレーションをした。具体的には,(1)パソコン上でメッセージを128ビットの鍵で暗号化,(2)暗号化したメッセージ本体をLAN経由で送信,(3)128ビットの暗号鍵を量子暗号通信で送信,(4)もう一方のパソコンで暗号鍵を使ってメッセージを復号,といった処理を実際に見せた。128ビットの暗号鍵は通信中に更新していく。ちなみに総延長87kmの光ファイバは研究室内に巻いてあった。

 伝送距離が延びたことでの量子暗号通信の実用化に弾みがつく。例えば,拠点間や拠点とデータセンター間の通信に適用できる。三菱電機 情報セキュリティ技術部の松井充主席研究員は「今回実現した性能があれば,実用化も不可能ではない。とりあえずはフィールド実験をやってみたい。実際に納入するとしたら,顧客の要望にあわせて距離や伝送速度を変えることになるだろう」としている。

(市嶋 洋平=日経バイト)