「TTC(情報通信技術委員会)でDSLのスペクトル管理を議論すべきではない」。2002年8月19日,ビー・ビー・テクノロジー(BBテクノロジー)はTTCのスペクトル管理標準部会に対しこの趣旨の文書を提出し,学識経験者による中立なスペクトル管理をする委員会の設置を提案した。ソフトバンク社長とBBテクノロジー社長を兼務する孫正義氏が,同年8月20日の記者説明会で明らかにした。同様の文書を総務省とNTTにも送付したという。

 スペクトル管理とは異なる通信システムを同じ電話線の束の中で物理的に共存させるためのルール。お互いにどのように干渉するかを調べ,問題があるもの同士は近づけないようにするというのが基本的な考え方である。TTCはスペクトル管理のルールとして,2001年11月に「JJ-100.01 メタリック加入者伝送システムのスペクトル管理」を定めた。具体的なルールとしては,電話サービス,ISDN,ADSLのAnnex A/Cの四つを標準システムとして,これに対し強く干渉するものを制限する。干渉はJJ-100.01で定められた計算式で算出する。

 BBテクノロジーがこの方法を否定する提案を出したのは,TTCでAnnex A.exの使用が制限される可能性が高くなったため。現行方式によるスペクトル管理では,近傍回線にADSLがない場所で2km以内の伝送しか認められない可能性が高い。TTCのルール自体に強制力はないが,NTT東日本がこのルールをADSL事業者に守ることを強制するよう約款の改定作業を進めている。約款の改定は早ければ2002年秋。そうなれば,Annex A.exのサービス展開に大きな足かせがかけられることになる。「真面目に新技術を開発したのに,ありもしない嫌疑をかけ,サービスを阻むのは許せない」(孫社長)。

 BBテクノロジーは「学識経験者を中心とした専門家会議を設置して,干渉問題を再検討すること」を提案している。現在,スペクトル管理標準部会はNTT東日本,イー・アクセス,アッカ・ネットワークス,BBテクノロジーなどのADSL事業者とNEC,住友電気工業などのADSLモデム・メーカで構成されている。「利害が絡む事業者やメーカ同士で他社サービスへの規制を議論するのがそもそもおかしい。最終的に多数決で決まることになれば,少数派の意見は通らない」(孫社長)というのがその理由である。JJ-100.01に対しても「文書中で決められた数式や計算方法はまったく実環境と一致しておらず,本来起こりもしない問題がさもあるような結論になっている」という。

(中道 理=日経バイト)