松下電器産業は2002年3月11日,「激しい」などの印象を表す言葉で音楽を検索する技術「ミュージックソムリエ」を発表した。音楽データに対し,それを聞いたときに人が受ける印象(感性イメージ)を自動的に推定する技術を開発することにより,感性に基づく検索を可能にした。

 これまではアーティスト名や曲名がわかっていなければ,膨大な音楽データの中から曲を選ぶことができなかった。しかし「ミュージックソムリエ」を使うと,「激しく躍動感のある曲」のような曲の印象や,「眠るときに聴く曲」のような状況を指定することによって選曲できる。用意された感性イメージのパラメータは「激しさ」「躍動感」「爽快さ」「素朴さ」「ソフトさ」の5種類。それぞれのレベルをスライド・バーで指定することにより,イメージに合った音楽を選択できる。シチュエーションは「騒ぎたい」「踊りたい」「和みたい」「眠りたい」の4種類が選択できる。また,ある曲と似た曲を探す,という類似曲検索も可能だ。

 松下はこれを,学習用の音楽データを用意し,音楽信号の分析結果と被験者による感性評価の結果を照合することで実現している。音楽信号は,テンポ,ビート,平均音数などの8種類の音楽的特徴を抽出する。次に,抽出した特徴データと,前述した5種類の感性イメージのパラメータで重回帰分析してルール化し,両者の対応関係を導出する。一方で,50人強の被験者に対して約200曲の評価実験をし,感性イメージのパラメータに基づいて曲の印象を収集した。そしてその結果を主成分分析して特徴を抽出し,集約した。このようなステップを踏むことで,音楽的特徴と統計的に作られた感性イメージの評価結果を関連付けた。このシステムに新たに曲を登録すると音楽的特徴を自動抽出し,対応する感性イメージに関連付ける。重回帰分析,主成分分析ともに既知の技術であるが,特徴量をいかに抽出するか,そしてそれを感性イメージとどのように対応付けるかという点で,松下独自のノウハウが生かされているという。またこの技術は,有効性検証に参加した人の約80%に「有効である」と評価されたという(具体的な参加人数は不明)。

 ただし同じ曲を聴いても,人によって受けるイメージはさまざまだ。より個人がイメージに合った曲を選べるよう,カスタマイズできる仕組みを導入することも考えているという。また現段階では,音楽が持つさまざまな要素のうちテンポやビートを中心に解析しており,メロディや和声についてはそれほど考慮されていない。また,音楽のイメージを決定付ける重要な要素である歌詞は解析の対象にはなっていない。ターゲットは,今のところ国内のポップ・ミュージックが中心であるという。

 松下はこのシステムを,まず放送局などの業務用として提供したいとしている。家庭用のジュークボックスソフトとしての展開も計画しており,年末までには発売予定だ。

(八木 玲子=日経バイト)

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