新しく開発された都市の多くは,電柱の姿が見あたらない。通信や電気のケーブルは,水道管やガス管などと一緒に地中に埋設されているからだ。このライフラインを張り巡らせるための巨大な地下管路を共同溝と呼ぶ。

 共同溝は街の美観向上に大いに役立つ。しかし,ことブロードバンド・インフラという観点に立つと,利用者の選択肢を狭めてしまう可能性がある。

NTTがほぼ独占する幕張ベイタウンの通信インフラ

 例えば幕張メッセで有名な千葉市の幕張新都心エリア。ライフラインはすべて共同溝にある。その中にある住宅地区「幕張ベイタウン」内の電話回線は,ほぼ100%光化されている。このため,ADSLは使えない。そこで,住民主導でインターネット・インフラを導入しようという計画が持ち上がった。

 作業を進めるに当たり共同溝がネックとなった。問題は二つある。

 一つはバックボーン回線として,NTT東日本以外のサービスを選びにくいこと。幕張の共同溝に通信事業者として参加している企業が,NTT東日本だけであるからだ。このため,NTT東日本以外の通信事業者が,共同溝に通信ケーブルを敷設するにはさまざまな手続きが必要になる。

 もう一つは,共同溝を使うためのコストが高いこと。この問題は,既設マンションへのインターネット・インフラ敷設工事を営むニューラルネットが直面した。同社は,隣接する4棟のマンションを光ファイバで接続することを考えた。すでにある共同溝を借りられれば,通信事業者から回線を借りるより安く,光ファイバで接続できるはず…。

 ところが,思惑は外れた。共同溝を使うには,予想以上に高額の管理費を毎月支払う必要があったからだ。その額は,通信回線の料金より桁違いに高いものだったという。

管路開放のガイドラインはあるが…

 このような話は幕張に限らず全国各地で起こり得る。

 共同溝の建設は莫大な資金がかかるため,地方自治体など都市の開発者は共同溝に入る事業者を募り,建設負担金を出資してもらっている。事業者は,出資金を支払う見返りに,共同溝のスペースを使う権利を得るのである。

 共同溝は,通常,後から参加する事業者のためのスペースは残されていない。このため,共同溝を使いたい事業者は,権利を持っている事業者に共同溝への参加を認めてもらうように交渉するだけでなく,権利を持っている事業者から空いているスペースを貸してもらう必要がある。

 例えば東京都の臨海副都心の場合,共同溝に参加していなかった通信事業者が,権利を持っている事業者からスペースを借り受けた例があるという。

 通信用途の管路の開放については,総務省がガイドラインを策定し,2001年4月に施行している。実際NTTも,「空きがある場合は,ガイドラインに従って他社に貸し出している」(NTT東日本 設備部基盤設備担当課長の山本隆宣氏)。

 ただし,このガイドラインは通信事業者や電気事業者,鉄道事業者などの公益事業者が所有する設備(管路など)が対象。行政財産は除かれる。結局,共同溝の運用方針は,自治体や自治体が参加する都市開発プロジェクト組織の考え方に委ねられている。

 もっとも自治体によっては,後から参加してくる通信事業者のために,管路をあらかじめ確保しているところもある。例えば横浜市がそうだ。横浜市はみなとみらい21で共同溝を敷設している。初期に建設した共同溝は後から参加する通信事業者向けのスペースを設けていなかったが,最近建設している共同溝では横浜市自身がスペースを確保し,これを後から参加する通信事業者に貸し出すという方法を採っているという。

 ADSLでは電話局からの距離が問題になったが,共同溝では管理組織の運用方針が問われることになりそうだ。

(市嶋 洋平=日経バイト)

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公益事業者の電柱・管路等使用に関するガイドライン