日立プリンティングソリューションズ(http://www.hitachi-ps.co.jp)は,2003年9月29日,Linuxディストリビューションにおけるフォント流用問題についての対応を明らかにした(問題の経緯は「フリーのフォントに権利侵害の問題が見つかる」http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/LIN/NEWS/20030624/1/を参照)。日立プリンティングソリューションズは,日立グループのうち,プリンタ関連製品を扱う会社などを統合して2002年10月に設立された。問題のフォントを開発,運用してきた関係者が多く在籍しているため,今回の対応窓口となった。具体的な対応内容は,「フォントの権利侵害について」と題した文書で日立プリンティングソリューションズのWebサイトにて2003年9月29日に公開された。

 要点は,(1)日立製作所とタイプバンクが開発した32ドット明朝体フォントの公開と配布は認めない,(2)これらのフォントから派生したフォントについても公開と配布は認めない,(3)ただし,32ドット明朝体の権利を使用したフォントの制作,公開,配布を“一定の条件”のもとに認める,というものだ。

 これだけを見ると,問題の32ビット明朝体フォントを部分的に参考にして開発された東風(こち)明朝フォントの無償利用は難しく思える。

無償利用も可能に

 しかし,実際には,(3)の一定の条件がかなり柔軟なものになっている。条件の詳細はまだ決まっていないが,基本的には「非商用利用に限るなどの制限があるだけで,ライセンス料金は不要」(日立プリンティングソリューションズ 事業統括本部事業企画部 主任技師の小池 建夫氏)である。

 日立プリンティングソリューションズは,東風フォントの開発者である古川 泰之氏らと,一定の条件に基づいた契約を交わす方向で話し合うとしている。そのため,東風明朝フォントは問題なく公開および配布できるようになる見込み。ただし,古川氏は「商業利用も可能なフォントの作成が開発動機であり,(今後の対応については)制作および配布活動の永久停止も含めて検討中」だという。

 初代渡辺フォントなど,32ドット明朝体のタイプフェイスがそのまま流用されたドット・フォントを公開,配布することはできないが,TrueTypeフォントなど派生したフォントの制作,公開,配布については,日立製作所と無償のライセンスを結べば可能になった。

 Linuxディストリビュータに関しても,無償のディストリビューションはもちろん,非営利のディストリビューションへの東風明朝フォントの添付は問題ないという見解である。実際には,フォント自体を販売するのでなければ,有償のディストリビューションであっても,フォントの添付は無償で可能だという。

問題のフォントは,現在もビジネス・ベースの商品

 問題の32ドット明朝体フォントは,1980年代前半から1996年まで,最盛期で20人弱の担当者が関与し,数十億円の開発費をかけて開発されたもの。財産権は日立社内の複数の部門がシェアしており,従来の主な用途はプリンタ内蔵向け,ワープロ内蔵向け,ROMへの組み込みだった。現在ではメインフレーム用の高速プリンタ用として使われているほか,放送局向け,電光掲示板向けにも利用されている。さらに,関連会社の日立インターメディックスが外部への販売権を持ち,販売も行っている。つまり,日立にとって過去のフォントではない。