シュワルツ社長 「Java技術は,開発者コミュニティのためだけのインフラではない。社会的インフラなのだ」──。6月27日(現地時間),米サンフランシスコ市で開幕したJava開発者会議JavaOne基調講演で,Sun Microsystemsのジョナサン・シュワルツ社長兼COOはこう語りかけた。特定の供給者がコンテンツを提供して利益を得る『情報の時代(Information Age)』は終わった。これからは,あらゆる人々が情報を発信して経済活動に関わる『参加の時代(Participation Age)』だ。そしてJava技術とは,開発プラットフォームであるだけでなく,ネットワークを利用した遠隔医療や遠隔教育に代表される社会的効用(Social Utility)を生み出すためのインフラなのだ,と。

 サンフランシスコ市では,JavaOneは1996年から毎年開催されており,今年は10回目にあたる(ほか日本で2回開催)。JavaOneというイベントは,主催者であるSun Microsystems社がJava開発者コミュニティに対してJava技術に関する新コンセプト,新ロードマップを提示するイベントといえる。今年は10回目のJavaOneであり,Java技術のデビュー10周年という節目の年だけあって,お祭りとしての要素も強い。

 シュワルツ社長は,切れ者揃いの米国ハイテク業界の経営者の中でも,理論構築の巧みさでは特に際だつ人物である。同氏が打ち出した概念は,「社会的効用」を高めていくための「参加型の社会」である。その一つのヒントが,BlogやWikiによる市民ジャーナリズムだ。「インド洋大津波に関するBlogでの情報発信の量と質は商業メディアを凌駕した。参加型のオンライン百科事典Wikipediaは従来型の出版社に対抗しうる事業だ」。このように,ネットワーク・インフラが発達することで,「参加の時代」に突入していると同氏は説く。

 そのキーワードは互換性,コミュニティ,ボリューム,価値。互換性がある技術はコミュニティを形成し,コミュニティが成長することで,その量(ボリューム)が価値につながる。これはJava技術の現状そのものだ──。どうやら同氏は,オープンソース運動や市民ジャーナリズムなど「参加型」活動に対する社会的インフラを提供する企業としてSunを位置づけようとしているようだ。

 では「Java技術が社会的インフラになる」とはどういうことか。開発プラットフォームとして普及し,機能を充実させるという事だけでなく,インフラ技術としてオープンソース化していくことも含まれる。今回のJavaOneでのSunの発表の中に,同社のJ2EEアプリケーション・サーバーと,JBI準拠のESB(エンタープライズ・サービス・バス)をオープンソースで提供するという発表がある。Sunは,以前からJava技術のオープンソース化をめぐり「オープンソース・コミュニティ対Sun」という対立の構図で語られることが多かったのだが,同社がコミュニティとの新たな関係を築こうとしていることは間違いない。Sunの姿勢に対して開発者コミュニティがどのように反応するかを見守っていく必要がありそうだ。

 (星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト)