6月10日,米サンフランシスコ市で,Java開発者会議JavaOne2003が開幕した。今回のJavaOneを特徴づける重要キーワードは「プログラム開発を簡単に」,そして「オープンソース開発者コミュニティ」だ。いずれも,Java技術の「死角」だった部分である。

 JavaOneは,米Sun Microsystems社が主催するJava開発者会議。1996年の第1回から数えて8回目となる。毎回のJavaOneでは必ずJavaの歴史の節目となる出来事があり,Java技術の今後の動向を知る上で最も重要なイベントとなっている。

Java Everywhere,どこでもJavaが動く

 今回,主催者側が用意したイベント全体のキーワードは「Java Everywhere」である。サーバーやデスクトップ,携帯電話,それにスマート・カードや自動車搭載機器など,各種の組み込みデバイスでJavaが動くことを強調するプレゼンテーションが目立つ。

 イベントの最初に,総合司会役として登場した米Sun Microsystems主席研究者のJohn Gage氏は,カリフォルニア大学バークレイ校が開発した「Smart Dust」を見せた。無線ネットワークでアクセスできる各種センサーを搭載した超小型デバイスで,いわゆるユビキタス・コンピューティングに関する研究成果の一つ。この種のデバイス類にJavaが搭載されていくことで,今後は数百万から数十億という単位のJava搭載機器が普及するとのビジョンを示した。

米Sun Microsystems社ソフトウエア・グループ上級副社長Jonathan Schwartz氏
 続いてJavaOne冒頭を飾るイベントは,米Sun Microsystems社ソフトウエア・グループ上級副社長Jonathan Schwartz氏(写真)と,同CTO(Chief Technology Officer)John Fowler氏の講演である。

 Schwartz氏は複数のデモを見せた。そのうち一つは,オンライン書店Amazon.comが公開するWebサービスのGUIクライアントをJavaで作成したもの。Java 2Dを駆使したビジュアルな画面を使い,購入したい書籍の絞り込みをしていき,最後に購入画面を呼び出す。Webサービスのためのリッチ・クライアントをJavaにより作成するというアイデアである。

 さらに,VodafoneのGlobal Content ServicesのCEOであるGuy Laurence氏を紹介。VodafoneではJava搭載の携帯電話を世界各国で展開中で,ゲーム搭載などの機能を紹介した。

オープンソース開発者コミュニティ・サイトjava.netを立ち上げ,JAX-RPCなどをオープンソースに

 John Fowler氏は,Java技術の最新の動向に触れた後で開発者コミュニティ・サイト「java.net」を紹介した。これは今回のJavaOneの「目玉」の一つである。

 このjava.netでは,オープンソース・プロジェクトの立ち上げ/運営が簡単にできるコミュニティ機能を提供する。誰でも自分のプロジェクを簡単な作業で立ち上げることができる。日本語ヘルプ機能もすでに用意されている。ソースコード管理システムCVSをWebブラウザから利用できる仕組みもある。プロジェクト参加者間のメーリングリスト運営機能や,掲示板スタイルのWeb日記「Weblog(Blog)」の機能もある。適用するライセンスはプルダウン・メニューで選ぶことができ,内容もApacheライセンス,BSD,GPL,MPL,SCSLなどがあらかじめ登録されているという至れり尽くせりぶりだ。

 このように,java.netはオープンソース・プロジェクトの立ち上げと運用に必要な道具立てを一通り提供する。

 枠組みを提供するだけでなく,いくつかのオープンソース・プロジェクトが実際にこのサイトに置かれている。Fowler氏の講演では,著名なオープンソース・ソフトウエアであるJava CC(Javaベースのコンパイラ構文解析機能生成ツール)のソースコードを実際に取得するデモを見せた。

 このjava.netに置かれているプロジェクトの中には,新たなJava技術を策定するJCP(Java Community Process)が開発した仕様の実装をオープンソースにするプロジェクトも含まれている。JAX-RPC(Java技術によるWebサービス基本機能でSOAPなどに対応する),JAIN(通信事業者向けAPI)などだ。

 従来は,JCPが策定した仕様(JSR)ごとに,その参照実装(RI)と互換性検証キット(TCK)も同時に開発していた。仕様策定までは従来通りだが,実装以降の部分をオープンソース・プロジェクトとして公開したことになる。

 今までのJCPは,オープンソース運動とは今ひとつ噛み合っていなかった。Servlet APIの実装をApache JakartaプロジェクトがTomcatとして公開しているという例外はあるものの,オープンソース運動の活力をJava技術にうまく取り込むことは,大きな課題だった。java.netは,こうした状況を打開するための方策といえる。プロジェクト参加の敷居を低くすることで,Java開発者コミュニティの力を引き出すことを狙う。

 JavaOneでの発表はもちろんこれだけではない。この記事以降,何回かに分けてJavaOne会場で見えてきた新動向をお伝えする。

(星暁雄=日経BP Javaプロジェクト)