IBMが描くSOA(サービス指向アーキテクチャ)戦略の全体像が徐々に見えてきた。ビジュアルな開発環境を備えた設計ツールで業務フローを定義する。設計者は,プログラマというよりは,ビジネス・コンサルタントに近い人達である。その結果を,BPEL(Business Process Execution Language)エンジンで稼働させ,業務プロセスを動かす。既存の情報システムは,コネクタによってサービス化し,高負荷に耐えるJ2EEベースのESB(エンタープライズ・サービス・バス)で連携する──こうした将来像である。

 日本アイ・ビー・エムは5月18日,SOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づくミドルウエア,開発ツール,コンサルティング・サービスを発表,さらに同社のSOAへの取り組みと方向性について明らかにした。以上の構想は,この発表内容の中から将来構想を抜き出したものだ。

 この発表会では,SOA対応の開発ツール製品「Modeler」と,BPELエディタを備えるJava開発ツール「WebSphere Studio Application Developer Integration Edition(WSAD-IE,写真はBPELエディタで業務フロー定義を開いているところ)」のデモンストレーションを見せた。Modelerは今後発表予定,WASD-IEは発表後間もない新製品である。画面写真にあるような業務フローをビジュアルに定義し,BPELを生成するという,新たなカテゴリの開発ツールである。

 同社はSOAで求められる設計・開発ツールとミドルウエア群を整備する一方で,SOAのメリットを引き出すためのコンサルティング・サービスに本腰を入れる。SOAに取り組むベンダーは多数出てくるが,「コンサルティングから実装までのすべての領域を提供できる」(同社)ことを売り物としていく。WebサービスやJ2EEという標準技術に基づくことから,「IBMがコンサルティングを引き受けて,他社のミドルウエア製品で実装することもありうる」(アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス アプリケーションイノベーション 取締役 福井隆文氏)としている。もちろん,その逆に他社が設計してIBMのインフラを使うという場合もありうる。BPELを,業務フロー定義の分野で標準にしていこうとする同社の意図はそこにある。

 SOAとは,企業情報システムを粗粒度・疎結合のサービス群して構築することで,企業の組織の変更,業務プロセスの変更,さらに情報技術の変更に対応しやすいようにする考え方である。IBMは,SOAの実現のため,J2EEプラットフォームとWebサービス技術,特にBPEL(Business Process Execution Language)を重視する。情報システムを構成する「サービス」をJ2EEにより作成し,Webサービスの標準インタフェースで接続できるようにし,それらを結ぶ業務プロセスをBPELで記述する。同社はこの一連の工程を支援するソフトウエア群の整備を進めている。

 その一方で,SOAを適用する場合には,従来型の開発手法と組み合わせるだけではほとんど意味がない。SOAは,動的に変わる組織,最適化のため変化を繰り返す業務プロセスといった,従来型の手法では対応できなかった領域に適用可能であることに価値がある。つまりSOAとは,ビジネス・コンサルティングやビジネス・モデリングと組み合わせて本領を発揮する。今回の発表が,コンサルティング・サービスと組み合わされている理由がそこにある。

 アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティングの福井氏(前出)は,「業務プロセスの設計ツール「モデラー」の表記法は,IBM内のコンサルタントが使う表記法LOVEMと似ている。コンサルタントの成果物とITとが,従来よりも隙間なくつながるようになると期待している」と話す。

 コンサルティング・サービスとしては,企業情報システムのどの部分をサービス化するか,またどのような業務プロセスを設計するかを決めるコンサルティングが必要となる。業務プロセスから「サービス」の単位を切り分け,既存システムをWebサービスでラッピングし,場合によっては新規のサービスを構築する。

 日本IBMが5月18日に発表した内容は,ミドルウエアの新製品,コンサルティング・サービス4種,それに同社のユーザー企業である。

●ミドルウエア製品
・WebSphere Business Integration Server Foundation(WBI SF)
ネイティブにBPELを稼動させるミドルエア。ワークフロー製品MQ Workflowの後継でもある。

●コンサルティング・サービス
(1)Component Business Modeling
顧客の事業をコンポーネント化する。
(2)Strategy and Planning for Service Oriented Architecture
顧客の事業戦略に合ったシステム・アーキテクチャの構想,SOAへの移行計画を策定する。
(3)Assessments for Service Oriented Architecture
SOA実装計画の評価を支援。機能的側面と技術的側面の両方から評価。
(4)Application Renovation and Integration for Service Oriented Architecture
既存システムのアプリケーション資産をSOAの業務プロセスと連携させることに価値があるかどうかを評価する。

●先進ユーザー
オージス総研は「ITアーキテクチャ再構築プロジェクト」を発足させ,IBMと共同でSOAに基づくシステム構築を検討中

 さらに,同社のSOAの将来構想も一部明らかとなった。ミドルウエア/開発ツールという側面について言えば,

●Modeler:業務プロセスを設計しBPELに落とし込む。
●WebSphere Business Integration Server Foundation(WBI SF):BPELエンジン。
●Monitor:業務プロセスの稼働状況を監視する。
●Enterprise Service Bus:高負荷,同期/非同期,永続化などに対応する。

の各製品群により,SOAのためのインフラを整備する。また,既存のIT資産を「サービス」として活用するため,各種アダプタも用意する。これはIBMが買収したCrossWorld製品が持っていたアダプタを利用する。

 SOAを手がけるベンダーは,EAIベンダー各社,マイクロソフト(BizTalk Serverなど),アプリケーション・ベンダー(SAP)ら数多い。その中でIBMは,ミドルウエア製品とコンサルティング事業の2本柱の戦略を打ち出してきた。SOAは,従来型のソリューションを置き換える発想ではその価値が見えてこない。従来型のシステムを効率よく作る方法というよりは,業務プロセスや情報技術の変化に即応できるシステムである点に価値があるからだ。コンサルティングとミドルウエア/開発ツールを組み合わせる同社のやり方は,その意味でよく考えられた戦略なのかもしれない。

(星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト)