「J2EEとGridは,別々のところで発生して同じ方向へ向かっている」と指摘するのは,稚内北星学園大学の丸山不二夫学長(写真)だ。Grid技術とJ2EE技術はいっけん違う分野のようだが,この両者の技術思想には共通点が多いという。両者の接点はWebサービス,そして「コンテナ」の概念である。

 丸山氏のこの指摘には,Sun Microsystems社のディスティングイッシュド・エンジニアとしてJ2EEを推進するマーク・ハプナー氏も注目しているという。5月10日から開催するイベント「Java Hands-On-Lab at wakhok-Tokyo」では,丸山氏による基調講演で,こうした見方に基づくJ2EEの将来動向を説明する。

 丸山氏の見解では,J2EEの将来動向を考えたとき,Grid技術は大きなトピックとなる。

 J2EEの最新版であるJ2EE1.4の大きなトピックはWebサービス技術との統合だった。J2EEはWebサービスのプラットフォームとしての実力を増しつつある。この動きと並行して,Grid技術の分野ではWebサービス標準の上にOGSA(Open Grid Service Architecture)/OGSI(Open Grid Service Infrastructure)という層を作る動きが進んでいた。OGSIは,2004年1月に新たに登場したWSRF(WS Resource Framework)に取って代わられたが,その根幹はWebサービス技術である。WebサービスはGridを実現するためのインフラ技術なのである。

 「J2EEは,経験的な知識の寄せ集めだが,かなり正しい」と丸山氏は話す。J2EEの上に構築された分散処理環境は,プログラミング・インタフェースはあまり変えないまま,多様なプロトコルをサポートする方向にある。例えばJAX-RPCでは,Javaの世界での自然な形の通信インタフェース記述でありながら,Webサービスのプロトコルをサポートする。

 そして,J2EEとGridの共通点として見逃せないのが「コンテナ」の概念だ。J2EEでのEJBコンテナは,分散オブジェクトを「EJBコンテナ」の配下で稼働させ,位置独立を実現している。Grid技術には,このコンテナの概念の影響が見られる,と丸山氏は指摘する。こうした技術的な方向性が似ていることから,「Girdコンテナであり,J2EEコンテナでもあるようなアプリケーション・サーバーが登場するだろう」と丸山氏は予測する。

 そして,丸山氏が「今後は要注目」と考えている分野が,「ビジネス・プロセスの統合」である。Webサービス技術でも,BPEL4WSやWSCL(Web Services Conversation Language)などの技術が登場しつつあり,一方J2EE関連技術ではJSR-208,JBI(Java Business Integration)の仕様策定がスタートしている。

 だとすれば,近未来の分散処理環境の姿は次のようになりそうだ。アプリケーションはJ2EE上に構築し,Grid機能をサポートしたJ2EEコンテナの上で稼働させる。Grid技術により,物理的な環境がSMP(対称型マルチプロセッサ)なのか,クラスタ構成なのか,ブレード・サーバーなのか,アプリケーション側では意識する必要がない。このような環境のもと,アプリケーション群をWebサービスの技術に基いて組み合わせてビジネス・プロセスを構築し,必要に応じて再編成する。インフラから,ビジネス・プロセスまでが分散処理環境と標準インタフェースで実現できる--これが近未来のシステム像である。

 そして,有力ベンダー各社がこの分野で主導権をとるべく競い合っている。数年後をにらんだ技術競争が,WebサービスやGrid技術という舞台で繰り広げられているのである。

(星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト)