ジェームズ・ダイソン氏をご存じだろうか。情報システムとはあまり関係がないが、エンジニアの起業家という点が本欄の読者にとって興味深いと思われるので、同氏のことをしばらく書いてみたい。

 ダイソン氏はイギリスのダイソン社という製造業の創業者であり、デザイナ兼エンジニアである。高機能で斬新なデザインの掃除機を開発・製造し、販売している。最近、日本向けに開発した「DC12」というモデルが販売され始めたところだ。

 筆者にダイソンのことを教えてくれたのは、セイコーインスツル(SII)の服部純市CEOである。服部氏に「最近関心を持っている企業や製品はありますか」と聞いたところ、「あのイギリス生まれの掃除機が面白いね。掃除機でイノベーションを起こしたでしょう。それがなぜイギリスからなのか、興味がある」という答えが返ってきた。

 取材の後、事務所に戻ってくると、弊社一階のショーウィンドウに黄色の単行本がかざられていた。書名を見ると「逆風野郎!」とある。著書はジェームズ・ダイソン氏。服部氏が語っていた掃除機メーカーの成功物語を、弊社がちょうど出版したわけだ。早速、その場で購入した。事務所の一階では、弊社出版物を販売しているのである。

 序章を読んだだけで、面白い本であることを確信できた。ダイソン氏は序章でこう宣言する。

 「この本は、米国のシリコンバレー企業よろしく、急成長して巨万の富をつかむためのお手軽なノウハウ本じゃない。ビジネス書でもない。むしろ、今あるビジネスに背を向ける本で、世界を役立たずの醜悪な代物や不幸せな人々であふれさせ、国を経済至上主義にしたクズ思想に反旗を掲げる本なんだ」

 クズ思想を粉砕し、「美しい物を作って、少しばかり金儲け」をするにはどうしたらよいか。「製品を十分採算の取れる高値で大量に売ることだ」。そんなことができるのか。「いまある製品より性能も見た目も優れた製品を開発」すればできる。

 そのために「大事なのはすべてにおいて人と異なること」。そしてエンジニアリングとデザインである。「エンジニアリングやデザインは(中略)長い目で見て、企業、さらには国をより良い状態に再生する手段」。

 エンジニアリングとデザインの重要性はダイソン氏が著書で一貫して唱えていることである。