昨年末に、ピーター・ドラッカー氏の「ネクスト・ソサエティ」を読んだ。恥ず かしながら、著名なドラッカー氏の本を読んだのはこれが初めてであった。あるベ ンチャー企業の若手社長と会食したときに、実に熱っぽくドラッカー氏のことを語 っておられたので、遅まきながら読んでみようと思ったのである。

 その社長に「どれから読むとよいですか」と尋ねたところ、「プロフェッショナ ルの条件がいい」というお答えであった。話をした数日後、書店に買いに行ったが 、「プロフェッショナルの条件」はあいにくなかった。そこで最新刊である「ネク スト・ソサエティ」を買って帰った。

 ネクスト・ソサエティを通読して、確かにいろいろと勉強になったし、刺激を受 けた。ドラッカー氏の読者は日本に何十万人といると思うが、筆者のように読んだ ことがない人もおられるだろう。そこで、ネクスト・ソサエティに書かれてある「 情識」をいくつか引用しつつ、筆者が思ったことを書いてみることにした。興味を 持たれた方はぜひとも、ドラッカー氏の本を読んでほしい。

 一回目は、「CEOの情報責任」についてである。ドラッカー氏は、「今日のCEOに もっとも必要とされるものが情報責任である」と書いている。情報責任とは、「ど のような情報が必要か。どのような形で必要か」を考えることという。情報責任を 果たすのはCEOであり、CIOではない、とも書いている。

 これはまったくその通りである。システム開発を担当している情報システム部員 や協力ソフト会社のシステムズ・エンジニアと話をしていると、「経営者がシステ ムに対して明確な考えを言わない」、「お客さんが何をしたいのかがはっきりしな い」という声が必ず出てくる。ドラッカー氏が言うとおり、「どんな情報がほしい 」と要求するのは経営者の役割である。

 問題はここからである。ドラッカー氏の本は何十万部という単位で売れた。座右 の書はドラッカーの著書と語る経営者もかなり多い。すると相当数の経営者が、「 CEOの情報責任」という下りをかみしめたはずである。しかし、それによって何か 変わったのだろうか。

 「情報システムをCIOに任せておくわけにはいかない」と言い出して、ERPパッケ ージを突然導入し、大金を失った経営者はよく見る。だが、ドラッカー氏のいう本 質的な意味の情報責任を果たすようになった経営者はまだそう多くないのではない か。

 つまり問題は、「必要な情報を定義してくれ」と言われても、経営者の多くが情 報を定義できないというところにあるのだろう。必要な情報を決めるということは 、その会社の仕事をどのように遂行していくかを決めることでもある。これはなか なか難しい。

 情報システムは仕事のやり方を反映したものであり、その仕様を最終決定するの は経営者である。筆者はこれまで何回もこのことを書いてきた。だが、「ではどう やって決めるのか」という点はあまり書いていない。いつも同じことを書いていて は芸がないので、今後は「そもそも何をするのか」「やることをどう見いだすか」 についても書いていきたい。