ぷららネットワークス
取締役
サービス企画部長
中岡 聡
  中岡 聡氏

 ブロードバンド回線を利用したテレビ・サービス「4th MEDIA」の提供を始めてから早くも1カ月が過ぎた。4th MEDIAはNTT東日本のフレッツ・サービスを使うものの,書斎のパソコンの前ではなく,お茶の間のテレビで楽しむサービスである。

通信サービスをお茶の間へ

 お茶の間のテレビといえば,これまで家電メーカーがお茶の間(ファミリ)から書斎(パーソナル)への展開に知恵を絞っている。これに対してインターネット関連企業では,4th MEDIAの前から先達たちが書斎からお茶の間へのサービス展開を模索してきた。このサービスの本質は,このことに由来する。

 お茶の間の中心であるテレビは「3メートル文化」といわれ,映像というメディアを表示するのに最適化されている。これに対し,書斎の中心であるパソコンは「50センチ文化」といわれ,文字や静止画を表示するのに最適化されたデバイスである。

 これまで先達者たちが試みてきたインターネットの文字情報や静止画情報をテレビで表示するというセットトップ・ボックス(STB)については,こうした表示デバイスの特性からも,残念ながら成功例を生み出せていないのが実情である。

 しかし,近年,インターネット接続回線が広帯域化してきたことによって,これまで不可能であった映像情報自体を伝送することが可能となってきた。そこで今だからこそ,再度,通信サービスをお茶の間に届けるセットトップ・ボックス型映像伝送サービスにチャレンジする価値があると考える。

“プレゼンス普及”よりも“ステルス普及”を

 IPv4によるIPアドレスの枯渇の問題からIPv6の必要性が叫ばれて久しいが,これまで実証実験などは行われているにもかかわらず,商用サービスの展開はあまり実例がない状況である。これには,大きく2つの原因があると想定している。

 1つは,石油の枯渇が叫ばれて原子力の必要性を訴えても,消費者に見えているのはあくまで「電気」であり,それが石油から作られようが原子力から作られようが消費者側からの実感が湧きにくい。これと同様に,IPv4が枯渇すると言われても消費者から見えるのはあくまで「サービス」であり,IPv6を消費者が積極的に求める状況にはならないという点である。

 このような顧客ニーズが高まらない場合,インターネット接続事業者(ISP)などの通信事業者サイドは,実証実験などで技術ノウハウの習得には踏み出しても,厳しい競争の中で多大なコストをかけて商用サービスに踏み込むモチベーションを生み出すまでにはなかなか至らない。

 また,インターネットの世界は,自己完結型のサービスではなく他者連動型で提供されるサービスであるから,自社サービスだけがIPv6に対応しても,サービス全体としてはIPv6から旧来のIPv4への変換が入ることは避けられず,そのメリットとデメリットが相殺されてしまいがちであるということもある。

 しかし,将来にわたり安定的にサービスを供給する責務を負った通信事業者各社は,IPv6化の道は避けて通れないという共通認識に立つという点には異論がないところだと思う。

 このような場合,「IPv6」自体を売り物にしてユーザーにアピールする“プレゼンス普及”を図るより,ユーザーが知らないあいだにIPv6が使われていたという“ステルス普及”を図る方が効果的であると考える。

ハリウッドから求められるクローズド・ネットワーク

 4th MEDIAを企画するにあたり,昨春よりハリウッド・メジャー各社と作品供給について交渉してきた。その中で,メジャー各社によって表現は異なるが,大きく言えば「クローズド・ネットワーク」「クローズド・ユーザー」「クローズド・ターミナル」を供給の原則としていることに気づいた。

 これは,ハリウッド・メジャーなどのビジネスモデルの根幹が,同一作品の視聴機会をコントロールする戦略に基づいて,1つの作品をマルチユースすることで収益を成り立たせるモデルであることに起因する。3つの条件は,自社作品の視聴機会を完全にコントロールするための必要最低条件なのである。

 よって,4th MEDIAのサービス提供には,インターネット(IX)とは相互接続しない「クローズド・ネットワーク」を実現することが必須となる。論理的な技術により実現する方法もあるが,QoS制御などのサービスごとの品質管理も考慮した上,ラストワンマイルを除き,非常にプリミティブながら最も確実な方法として,インターネットで利用している物理網とは別の4th MEDIA用中継網を構築することを選択した。

 これにより,技術的にもサービス的にも過去のIPv4からは完全に開放されたため,自己完結型の全く新しいクローズドなサービスである4th MEDIAにおいてはIPv6を採用しやすい環境にあった。

テレビは常時接続

 IPv6の普及を阻害する2つ目の要因として,料金体系としての定額サービスには強いニーズがあったとしても,インターネットで利用されるサービスには依然としてリクエスト(プル)型のサービスが多く,サービスにおける常時接続の必然性がまだまだ低いということが挙げられる。ブロードバンド接続メニューがこれだけ普及していながら,実際の同時接続率は約50%以下であるという点からも明らかである。

 このような状況から,ユーザー自身がサーバーを立てるなどサービスの提供側になる場合を除いて,IPv4で接続時に一時的にIPアドレスをリースする現在の方式で充分であり,常時固定アドレスが持てるIPv6を必須とするまでにはサービス的に至っていないことが考えられる。

 一方,テレビはもともと究極のプッシュ型サービスであり,「ながら視聴」が多いという点からも,サービス的に常時接続が求められるものである。

 また1世帯内に複数のテレビがある場合も多く,視聴者ごとの視聴管理を行うことも必要である。4th MEDIAサービスの提供において,常時固定のIPアドレスを持てるIPv6を採用することが積極的な必然であったとは上記の意味からも言える。

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 将来のIPv6普及状況を予測することは大変難しいが,4th MEDIAがIPv6を採用したように,自己完結型のクローズドなネットワークであり,サービス的にも常時接続が求められるものからIPv6がステルス的に普及していくのではないかと思う。そのような意味においては,現在普及が始まっているIP電話サービスでもIPv6の利用が始まっていく可能性が高いと予測する。

■著者紹介:
なかおか さとし。1988年,NTT入社。1989年,NTT企業通信システム本部にて企業向けCS衛星放送および金融機関向けネットワーク・サービスに従事。途中,NTTヨーロッパ(英国)にて研修中に欧州におけるパソコン通信の進展に興味を覚える。1994年,NTTマルチメディアビジネス開発部にてISPサービスの立ち上げを企画立案し,ジーアールホームネット(現ぷららネットワークス)の設立より参画し現在に至る。