米上院は,米国民に身分証明に関して広範囲な義務を課す電子IDカード法案「Real ID Act」を米国時間5月10日に満場一致で可決した。オンライン活動家が同カードの導入を阻むために抵抗していたが,試みは失敗に終った。

 2月に下院において261対161で可決した同法案は,イラクでの戦費調達や津波被害者救済を目的とした820億ドルの緊急支出法案に盛り込まれている。Bush大統領の署名を経て同月中に立法化される予定。Bush政権をはじめとする同法案の支持者は,不法入国者による運転免許証の取得を阻止するためにこの法案が必要だと主張している。

 同法が予定通り2008年5月に施行された場合,米国民は,米国土安全保障省が定める規格に沿った「機械で読み取り可能な技術」を組み込んだ連邦政府公認のIDカード取得が義務付けられる。そのようなIDカードを携帯しない者は,飛行機や全米規模で走っている列車による旅行,銀行口座の開設,連邦政府の建物への立ち入りが事実上禁止されることになる。

 米市民自由連合(ACLU),米移民法弁護士協会(AILA),米福音主義協議会(NAE),米図書館協会(ALA),米計算機学会(ACM)をはじめとして600を超える団体が同法案の成立に反対している。プライバシ保護を訴える活動家は,同法案の可決が目前に迫っていた過去数日間において警告を発し続けた。

 電子フロンティア財団(EFF)は,前週「Stop The Real ID Act!」というキャンペーンを急遽立ち上げた。同法案を「ナショナルIDカード」と呼んでいるUnRealID.comでは,上院に送るオンライン嘆願書の1万800人が署名したことを明らかにしている。また,ACLUは,同法案がID窃盗を助長するシステムを作ることになると非難している。

 米メディアの報道(CNET News.com)では,同法案が緊急支出法案に組み込まれることなく単独の法案として提出されていたら,上院で可決されるか否かはより不透明だっただろうと推測している。

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