米Hewlett-Packard(HP)は,トランジスタと異なる原理で動作する分子サイズのスイッチング回路「crossbar latch」を米国時間2月1日に発表した。HP社の研究組織であるHP Labs量子科学研究(QSR)グループが,トランジスタを使わない分子サイズの回路で,信号の回復/反転動作を確認したもの。「トランジスタに取って代わる基盤技術であり,コンピュータの処理能力を現在の数1000倍に高める可能性がある」(同社)

 同回路は,信号線として機能する1本のワイヤーと,それに交差する2本の制御線用ワイヤーで構成する。信号線と制御線のあいだは,分子サイズの電気的なスイッチで接続してある。制御線に電圧パルスを加え,極性が反転するようスイッチを操作すると,回路がNOT素子として機能した。回路内の論理レベルを望ましい電圧値に戻すこともできるので,単純なゲートを数多くつなげることで,演算を処理する回路を組み立てられるという。

 HP社上級フェロー兼QSRディレクタのStan Williams氏は,「ナノ・サイズの素子で比較的安価かつ容易にコンピュータを構築するにあたり,crossbar latchは重要な要素となる」と説明する。

 「いずれcrossbar latchは,トランジスタの代わりにコンピュータで使われるだろう。かつて電磁リレーが真空管になり,真空管がトランジスタになったのと同じだ」(HP社QSR上級コンピュータ・アーキテクトのPhil Kuekes氏)

 研究の詳細は,科学雑誌「Journal of Applied Physics」の同日号に「The crossbar latch: Logic value storage, restoration and inversion in crossbar circuits」として掲載する。

 またKuekes氏は,同回路で米国特許を取得している。米国特許番号は6,586,965。タイトルは「Molecular crossbar latch」。2001年10月29日に申請し,2003年7月1日に成立した。30件のクレームから成る。

 米メディアの報道(CNET News.com)によると,crossbar latchの信号線と制御線の間隔は約2nmという。それに対し,90nmプロセス・ルールLSI内のトランジスタの場合,同等の機能を実現する回路の接続部分は約60nmある。

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