長距離通信の大手である米AT&Tは,オハイオ州を始めとする全米7州において新規の個人向けの市内および長距離電話サービスから撤退する。同社が米国時間6月23日に明らかにした。これは,米連邦通信委員会(FCC)が競争の促進を目的として,地域通信会社に対し競合相手に回線の開放することを義務付けた規則が無効になったことを受けたもの。

 ワシントン連邦高裁は,長距離通信会社が地域通信事業に参入する際に,回線開放を義務付けたFCCの規則を無効とする判決を下しており,ブッシュ政権は最高裁への上告断念を6月9日に表明していた。AT&T社や米MCIなどは10日に,高裁判断の執行延期を求める緊急の申し立てを連邦最高裁に対して行ったが,その訴えも退けられた。

 同社によるサービス撤退の対象となる州は,オハイオ,ミズーリ,ワシントン,テネシー,ルイジアナ,アーカンソー,ニューハンプシャーの7州。なお,法人顧客や既存の個人顧客については引き続きサービスの提供を継続するという。同社では,サービスから撤退する州の拡大も検討しているという。

 「同規則を無効にすることにより,Bell系地域電話会社は,早くも11月には卸売価格を上げられるようになるだろう」(AT&T社)

 同日,米Z-Telもアイダホ,アイオワ,メイン,モンタナ,ネブラスカ,ニューメキシコ,アーカンサスの7州において新規顧客向けサービスから撤退することを発表している。米MCIは,大幅に地域サービスを制限する,または個人向けサービスから完全撤退する可能性があることを示している。

 これらの発表を受け,各界の団体がコメントを発表している。

 「AT&T社の発表は,地域電話市場における消費者への選択肢の拡大,価格引き下げ,サービスの改善とは逆方向に向かう連邦と州による数々の決定の反応として理解できるものだ」(Coalition for Customer Choice常任理事のWayne Hill氏)

 オハイオ州の非営利団体Competition Ohioは,AT&T社がオハイオ州でサービス撤退を決めた別の要因として,同州の行政による不利な決定も災いしているとしている。これは,SBCのような大手による独占状態を復活させると警告している。

 同団体は,「州の監督機関は,公聴会や検証を実施することなく,SBCの独占を支援することを選択した。これは,同委員会が,選択肢の拡大,サービス改善,通話料金の低下に興味がないという明確なメッセージを競合会社と同州の消費者に送ることとなった」とコメントしている。同州の公共企業委員会(PUCO)による非競争的な活動がサービス撤退を導いた一因だとしている。

 また,イリノイ州では,州の商業委員会(Illinois Commerce Commission)が,市内通話料金の卸売価格を4ドル以上値上げさせるという決定を同月発表している。通信事業の競争を促進する団体ICCTの常任理事Melia Carter氏は,「ブッシュ政権と不利な州の規制により,14州における消費者の選択肢が大幅に狭まるとともに,年間数十億ドル分の価格引き下げが消え去った。残念なことに,イリノイ州では地域電話の卸売価格の4ドル値上げが州商業委員会によって認められてしまった」とコメントしている。

 カリフォルニア州の非営利団体Californians for Telecommunications Choice(CTC)常任理事長であるPaul Fadelli氏は,「心配していたことが現実となった」とコメントした。「通信事業者2社が14州において競争から撤退した。カリフォルニア州の規則は,顧客のための競争,選択,価格低下を守るための最後の砦となった。同州の監視機関は,消費者のために立ち上がらなければならない」と述べている。

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