米IBMの研究チームが,スピン・コーティングと呼ばれる製法で従来より性能の高い半導体フィルムを製造することに成功した。IBM社が米国時間3月17日に明らかにしたもの。「この手法で製造したフィルムは,同様の方法で製造したこれまでの半導体に比べ電子の移動度が約10倍高い」(同社)

 高性能の電子素子を製造するには,純度の極めて高いシリコン結晶上に複雑なパターンを正確に形成する必要があり,サイズを小さくしようとすると技術的困難が増し,製造コストが高くなってしまう。そこで,コストのかからないスピン・コーティングなどの製法が検討されている。

 スピン・コーティングは,回転する円盤の上に液体を数滴たらし,回転による向心力で液体が薄くフィルム状に広がることを利用する製法。この状態で液体を硬化させると,その上にトランジスタなどの素子を形成できるようになる。フィルムの厚さは,液体の粘度や回転させる時間によって調整する。

 ただし同社によると,「この製法で使用できる材料は電子の移動度が低いため,適用できる範囲に制限があった」という。「必要な移動度を維持可能なフィルムを作成できる半導体材料は,これまで液体に溶かせなかった」(同社)

 これに対し同社の研究チームは,高い移動度を持つ材料を液体に溶かす技術を開発し,従来より移動度が高く,均一性に優れた厚さ5nmの半導体フィルムをスピン・コーティングで製造することに成功した。同社では,「この材料は,スピン・コーティングや印刷,スタンプ,液浸など高速/低コスト/高スループットという特徴を持つ液体ベースの半導体製造技術を通じ,薄膜電子素子の適用範囲拡大に大きく貢献する」とみている。

 同社は同製法の詳細について,英国の科学雑誌Nature(2004年3月18日版)に掲載する。

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