米Lucent Technologiesの米Bell Labs(ベル研)は,シリコン面上にある水滴を制御する技術を開発した。Lucent Technologies社が米国時間3月12日に明らかにしたもの。「nanograss(ナノ・レベルの芝生)」と呼ぶ加工を施したシリコンの上に水滴を置いて電圧を加えると,動きを自在に制御できるという。
nanograssは,ナノ・レベルの大きさの“刃”をシリコンの表面上に設けたもので,刈り込まれた芝生と似た形状をしている。この上に液体を置くと,通常とはまったく異なる振る舞いをする。
液体がガラスなどに付くと,通常は表面をぬらし,広がったり飛び散ったりしてしまう。ところがnanograssの場合,“刃”が非常に小さいため水滴は上部にとどまり,その動きを正確に操作できるようになる。「この現象を物理的に説明すると,水滴が“感知できる”表面積を減らすことで,液体と表面とのあいだで働く相互作用を100分の1から1000分の1にしている」(ベル研研究者のTom Krupenkin氏)
研究チームは,はっ水性素材の表面にnanograss加工を施し,その上に液体をたらすと,水滴が表面をぬらすことなく動くことを確認した。さらに,小さな電圧を加えて動きを制御し,表面をぬらすこともできたという。
ベル研では,nanograssは以下のような用途に利用できるとしている。
・LSIなどの冷却:
LSI上の熱い場所に水滴を移してぬらし,熱を吸収させて別の場所に動かす。必要な部分だけ冷却できるので,高価で効率の低い冷媒やヒート・シンクをLSIの全体に使う必要がなくなる。
・光学回路:
光信号の経路に水滴を入れたり取り除いたりすることで,スイッチング動作が可能となる。
・効率の良いバッテリ:
従来のバッテリは電解液と電極が接触しているので常に反応が進んでおり,使っていなくても時間が経過すると放電してしまう。nanograssで電解液の動きを制御し,電力が不要なときには電解液と電極を分離しておくと,バッテリを長寿命化できる。
・化学検査用チップ:
数1000種類もの化学検査用試薬をnanograssの“根元”に細かく分けて配置しておくことで,コンビケムや遺伝子分析に利用できる。
・その他:
水に対する抵抗が小さい魚雷,清掃不要の窓ガラス,高速なボートなどにも応用可能。
ベル研は,nanograssの詳細をAmerican Chemical Society(米化学学会)の機関紙Langmuir(2004年5月11日版)に掲載する。
◎関連記事
■米ベル研が海綿動物から光ファイバ状物体を発見,「曲げに強く,ファイバ製造コスト削減のヒントに」
■米ベル研,複雑な構造を持つ方解石の単一結晶を直接形成する手法を開発
■米Bell Labsの研究者が,光通信などに応用可能なヒトデの“レンズ”を発見
■米IBM,カーボン・ナノチューブ単一分子による発光素子を開発
■米IBMが分子による“ドミノ倒し”で動作するコンピュータ回路を開発,「大きさは最新LSIの26万分の1」
■米IBMが記録密度1Tビット/インチ2が可能な新たな記録方式を発表,「“ナノテク”版パンチ・カード」
■「ナノテクノロジでムーアの法則の延命と適用範囲拡大を図る」,米インテルがIDFで講演
■「2015年までに1兆円規模になるナノテクノロジ市場,急成長を遂げるのは材料分野」――米調査
[発表資料へ]