米国の調査会社Booz Allen Hamiltonは米国時間6月2日,電子機器製造市場の今後の展望について調査結果を発表した。それによると,コスト削減と新たな市場を模索する電子機器業界の動きを反映して,製造業務を発展途上国に移す企業が増加している。このため,発展途上国の電子機器製造市場は,2001年の650億ドル規模から2005年には1250億ドル規模へと拡大する。同期間における世界電子機器製造市場の成長は,その43%が発展途上国によってもたらされる。

 調査は,Booz Allen社が米International Finance Corporation(IFC)と共同で実施したもの。世界各地の電子機器製造会社で働く上級管理職117人を対象にインタビュー形式で行った。なおこの調査では,発展途上国を「北米,西欧,オーストラリア,日本,香港,韓国,シンガポール,台湾を除く国々」と定義している。

 最も急速に成長するのは中国で,発展途上国における成長の77%を占める。また,中国が世界電子機器製造市場で占める割合は,2001年の8%から2005年には14%へと急増し,他の国の約2倍の速度で成長する。2005年における中国の電子機器製造市場は800億ドル規模に達し,西欧の730億ドル規模を上回る。なお,中国以外では,東南アジア,東欧,メキシコなどが順調に成長する。

 発展途上国は,高価値サービス分野でも力をつけ,今後数年間にエンジニアリングや設計といった業務を先進国から請け負うようになる。とりわけ,インドやロシアは熟練した人材が豊富で,人件費が先進国と比べ最大80%も低いという強みがある。

 中国の成長に,SARS(重症急性呼吸器症候群)が与える影響が懸念されている。しかし調査から,一時的に,極めて限られた範囲でしか影響しないと考える回答者が多いことが分かった。

 自社の電子製造業務を中国に移すにあたって,SARSは「全く影響しない」という回答者が22%を占めた。「一時的に,わずかに影響する」という回答者は64%で,「中程度の影響がある」とする回答者は14%だった。また,SARSが「発展途上国の長期的な成長に,深刻な影響を与える」と考える回答者はゼロだった。

 IFC,Global Manufacturing and Services部門担当ディレクタのDick Ranken氏は,「発展途上国での製造が増加しているのは,それらの国が市場としての力をつけつつあることの現れだ」と説明した。「例えば,中国でエンド・ユーザーが増加していること自体,同国の製造分野における競争力強化に大きく貢献している」(同氏)

 また,Booz Allen社副社長のBarry Jaruzelski氏は「競争が激化する昨今,発展途上国で実現できるコスト削減は何ものにも代え難い。多国籍企業が先陣を切って,製造プロセスを発展途上国に移しつつある」と述べた。

 その他の主な調査結果は次の通り。

・2005年まで,発展途上国の成長が著しいのは,最終アセンブリ,ディスプレイ,半導体などの製造分野となる

・中国が電子機器製造業の中核として成長する。2005年には,大量生産アセンブリの45%が中国で行われるようになる

・発展途上国が製造する電子機器向けディスプレイのうち,アジア太平洋地域で製造されるのは83%。そのうち,中国で製造されるのは44%

・発展途上国が製造するコネクタやケーブルのうち,アジア太平洋地域で製造されるのは78%。そのうち,中国で製造されるのは66%

・発展途上国が製造するバッテリのうち,東欧で製造されるのは25%,中南米で製造されるのは16%

・電子機器を分野別にみると,コンピュータおよび周辺機器の製造市場が最も成長し,2001年から2005年にかけて約470億ドル増加する。同期間に,消費者向け電子機器は200億ドル増,ハンドヘルド機器は160億ドル増,自動車向け電子機器と電気通信機器は110億ドル増となる見通し

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