マサチューセッツ工科大学(MIT)と米国陸軍は,共同設立したナノテクノロジの研究所「Institute for Soldier Nanotechnologies(ISN)」の施設完成と運営開始を祝う式典を開催した。MITが米国時間5月22日に明らかにしたもの。同研究所はマサチューセッツ州ケンブリッジに位置し,敷地面積は2万8000平方フィート(約2600平方m)ある。

 ISNは,米国陸軍が5000万ドルの補助金を拠出して2002年3月に発足した。基礎/応用研究を連携させ,戦場における兵士の生存率を飛躍的に高められるナノテクノロジの開発を目的とする。現在の主要テーマとして,兵士の防御,能力向上,負傷時の処置/治療という3分野で研究を進めている。具体的には,「弾丸や炎,化学/生物兵器からの防御,負傷者の症状監視や治療の自動化,戦闘能力の向上,装備の軽量化などを研究中」(MIT)という。

 式典で展示した研究成果は以下の通り。

・布や兵士の装備に施すことで防水性と滅菌性を持たせられるナノスケールのコーティング技術

・磁界に入れると硬くなる液体に関する研究。必要なときに硬化させて防具として利用できる

・電界に入れるとアコーディオンのように広げたり畳んだりできる高分子化合物の生成。人工筋肉や自動的に機能する止血帯として利用できる

 ISNは7つのチームに分かれて研究を行う。主なチームの研究テーマの概要は以下の通り。

・エネルギ吸収素材:戦闘服の一部に利用可能なエネルギを吸収するナノ素材の開発。弾丸などに対する防御性を向上させ,兵士の生存率を高める

・機械的な動作を行う素材および機器:動きを補助したり動的に硬化するナノ素材を開発する。兵士の行動能力の改善と,戦場における治療に役立てる

・センサーおよび化学/生物兵器に対する防御:感応性の高いセンサーや,戦闘服に織り込める防御性に優れた繊維や布など,化学/生物兵器の発見や対応を可能とする技術を開発する。

・治療用の医用材料やナノ装置:大量の出血など命にかかわる負傷を処置するナノテクノロジの研究。負傷した兵士の治療優先度を決定する新手法を開発し,応急手当を自動化する

 なおISNを支援する企業/組織は以下の通り。米Dow Corning,米Triton Systems,米Dendritic Nanotechnologies,米Nomadics,米Carbon Nanotechnologies,W.L. Gore and Associates社,米DuPont,米Raytheon,Partners Healthcare社,Army Natick Soldier Center,Army Research Laboratory。

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