米XeroxのXerox Research Centre of Canada(XRCC)の研究グループが,半導体の特性を備える新たな有機ポリマーの合成に成功した。Xerox社が米国時間12月3日に明らかにしたもの。

 「この有機ポリマーを利用すると,極めて低いコストでプラスチック製サブストレート上に電子回路パターンを形成できる。1枚のやわらかいプラスチック・シート上に画面を表示するポスターのようなテレビなど,まったく新しい製品の実現に1歩近づいた」(同社)

 XRCCの研究グループの開発した素材は,プリント・プラスチック回路に必要とされる優れた電気特性を示すという。またほかの素材は酸素によってすぐ劣化してしまうのに対し,この新素材は空気中でも安定している。そのため同社では,「低コストで製造できる」と説明する。

 「(現在一般的な)シリコン製電子回路は製造が難しく,1平方m当たり最大1万ドルのコストがかかる。それに対しプラスチック製基板を利用したトランジスタならば,安価かつ容易に製造できる。商店用のIDタグから電子ペーパー・ディスプレイまで,さまざまな製品への応用が可能」(同社)

 XRCC研究フェローのBeng Ong氏は,「プラスチック製基板にプリントしたトランジスタがコスト的に最も有利な点は,高額な経費のかかる専用製造設備が不要なところ」と説明する。「それに対しシリコン製トランジスタの製造には,高度に清浄化されたクリーン・ルーム,高温度に耐える真空システム,複雑なリソグラフィ処理が必要になる」(同氏)

 Ong氏の研究グループが試作した有機半導体素材は第2世代のスメティック液晶に相当し,電界効果トランジスタとして最高0.12平方cm/V秒の移動度を示したという。「ほかのポリマー素材で同様のデバイスを作った場合と比べ,最大で1ケタ高い値が実現可能」(同社)

 また,電流のオン/オフの比率が10の6乗から7乗という非常に優れた値を示す上,バイアス・ストレスや,空気中でのヒステリシスおよび不安定性が小さいという特徴がある。

 Xerox社では,この新素材がどのような用途のプリント基板に適しているかの試験を行うとしている。試験の結果実用化に耐えることがわかれば,有機電子業界にライセンス供与することで同素材の商業化を積極的に進めるという。

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