米IBMの研究開発部門IBM Researchは米国時間8月2日,低コストで,低消費電力の有機電子回路に利用できる材料に関して大きな研究成果を達成したことを発表した。曲げたり丸めたりすることができるコンピュータ・ディスプレイや,腕時計,ICカード,IDタグ,劇場チケットなどが将来実現できるという。

 IBM Researchが英国の科学雑誌「Nature」の8月2日号に発表したもので,それによると,表面処理した材料に有機半導体を蒸着することで,結晶の大きさが従来の20~100倍になり,電子デバイスに利用可能な半導体特性を示す電気伝導性のある薄膜を作れるという。

 炭素原子22個と水素原子14個からなるペンタセン分子は,多様な材料に蒸着して柔軟性のある電子デバイスを作るのに利用されている。しかし,従来の手法では結晶サイズが小さく,良好な半導体特性は得られなかった(図左)。今回報告した手法を用いることで大きな結晶サイズの薄膜の開発が可能になる(図右)。これによりIBM社では,低コストや低消費電力化が期待できる有機トランジスタや発光デバイスの開発がすでに可能だという。

 「製品化はまだ先だが,この新手法により,プラスチックなどの表面に半導体薄膜を“印刷”したり“スプレー”して,コンピュータ部品を容易に作れるようになる」(IBM Research)。

 IBM Resarch,物理研究部門ディレクタのTom Theis氏は,「柔らかいディスプレイや,今まで考えてもしなかったような電子デバイスを利用したコンピュータが実現可能になる。ディスプレイを丸めてポケットに入れることだってできるようになる」と説明する。

 なおこの研究に関する報告は,Nature誌(Volume 412 on August 2, 2001)に掲載されている。タイトルは「Growth Dynamics of Pentacene Thin Films」。

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