米HP(Hewlett-Packard)が分子エレクトロニクス技術に関する米国特許を取得したことを,米国時間7月17日に明らかにした。「分子レベルのコンピューティングを実現する際の障壁を取り除ける」(HP社)という。

 HP Labsの研究者Phil Kuekes氏とStan Williams氏に2001年7月初めに特許を取得した。「分子レベルのデバイスと今日のLSIを接続する際に生じる問題の解決策を提案するもの」(同社)という。

 今日の集積回路では,非常に精密で複雑な配線パターンが求められる。そのパターンを辿ることで,所望のデータを書き込んだり,読み出したり,処理することができる。しかし,このような配線パターンを分子レベルの配線で作るのは事実上不可能である。

 同社が取得した特許では,化学処理の手法を使って配線を作るという方法を提案する。配線はランダムである。このランダムな配線から,コンピュータ・アルゴリズムを使って所望のルートを決定していくという

 この特許についてKuekes氏は次のように説明する。「我々は,街に“ストリート”とそれと交差する“アベニュー”を作った。しかしそれらがあまりに微細なため,そこに通り名を書くことができない。その代わり,化学処理でそれぞれに一意の名前を付ける。その後に名前ですべての通りを識別することのできるプログラムを走らせ,街の地図を作る。地図を一度作ってしまえばあとは,交差点に情報を保存したり,そこから情報を取り出したりできる」(同氏)。

 なおこの特許はWilliams氏とKuekes氏,カリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)で教授を務めるJames Heath氏が,2000年10月に取得した特許をベースとしている。その特許は「ナノメートル・ワイヤの格子間に挟まれている,スイッチ可能な分子を使ったメモリ・デバイスの製造方法」(HP社)だという。

 HP社とUCLAでは今回取得した特許を用いて2005年までに16kビット・メモリを製造するという予定である。なおこの計画に対しては今後4年間にわたり資金が与えられる。米国国防総省高等研究計画局(U.S. Defense Advanced Research Projects Agency)から1250万ドルが提供されるほか,HP社も1320万ドルを投じる予定である。

 「我々は,分子で集積回路を作り直す。これに関して我々は二つの主要な特許を取得しており,このほかにもいくつかを申請中だ。やがて今日のコンピュータよりも何百万倍も効率の良いコンピュータが実現する」(Williams氏)。

 シリコン技術は2012年には物理的に,また経済的に限界に到達すると予測されていることなどから,HP社では今後も分子エレクトロニクス技術の研究を追求していくという。

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