(2001.2.7,Mary Mosquera氏=TechWeb News

 1996年の通信法(Telecommunication Act)制定からこの2月で丸5年を迎えた。一般消費者に地域電話サービス事業者を選ぶ権利を保証するために,通信回線の共用化を規定した法律である。地域電話サービス会社の通信回線を他社に開放する代わりに,それまで規制されていた長距離電話事業に参入できるようにした。

 米AT&TのCEO,Michael Armstrong氏は2月7日(米国時間),記者団の質問に対し,「(権利を保障と謳ってはいるが)消費者はいまだに待ち続けている。競争を促すはずが,実際には一部企業による独占が進み,ライバルは次々と姿を消している状況だ」と改めて不満を露わにした。

 この5年間で市内電話の通信回線を開放した地域電話会社は,最大手の米Verizon Communicationsと米SBC Communicationsのわずか2社にとどまっている。この2社は「開放」と引き換えに,ニューヨーク,テキサス,カンザス,オクラホマの4つの州で長距離電話事業に参入した。

 一方で,地域電話会社のあいだでは合併など経営の統合が進み,企業の数は5年間で8社から4社に半減した。これにより,地域電話サービス市場では少数企業による寡占化がさらに進んでしまった。

 Armstrong氏は,ワシントンで米連邦通信委員会(FCC)の新委員長Michael Powell氏と米国下院エネルギーおよび商業対策委員会(House Energy and Commerce Committee:HECC)の新委員長Billy Tauzin氏と意見交換を行った。Armstrong氏は,「ブッシュ新政権はこうした状態を元どおりに戻すべきだ。まず寡占化にメスを入れ,それから規制緩和を講じるべき」と強く主張している。

 「私はもともとこの通信法改正には反対だった。結局この5年間で起こったことといえば,規制緩和どころか“規制強化”へ,果ては法廷闘争という事態をも招いてしまった」(Armstrong氏)。

 一方で,地域電話回線を開放したVerizon社のコメントはやや異なる。「地域電話サービス市場での競争は次第に激しくなってきている。2000年中に競合企業の数は2倍になった。東部地域では地盤の約10%を競合企業に奪われてしまった」(Verizon社)。同社はまもなく現在マサチューセッツ州での長距離電話事業にも参入するという。

 「我々通信業界にとって最も大きな課題となるのは,じわじわと忍び寄る当局の介入を阻むこと。ルールはあくまでも,広帯域サービスやその他のインターネット関連の最新サービスなどを視野に入れたものとすべきであり,余計な強化は受け入れられない」(Verizon社上級副社長のTom Tauke氏)。

 AT&T社は,テキサス州とニューヨーク州で地域電話サービス事業に参入している。「SBC社とVerizon社から回線を借りなければならず,そのリース料があまりにも高額で,結果的には競争を大いに妨げている。このような状態が続く限り,真っ向から競合できる企業など出てくるわけがない」(Armstrong氏)。

 ニューヨークでAT&T社がVerizon社から奪った顧客数は,Verizon社が長距離電話事業への参入でAT&T社から奪った顧客数を上回る。「しかし,実際のところは,顧客が増えると赤字も増えるという状況だ。特にニューヨークでの収支は大変厳しい」(Armstrong氏)。

 地域電話サービス市場では,競合する参入企業の料金やサービス内容などはすべて地域電話会社の手中にあるという。「参入企業側にもこれに対抗しうる何らかの枠組みが必要」(Armstrong氏)。

 Tauzin HECC委員長は,「Verizon社がニューヨークで長距離電話事業の認可を受けるという動きが明らかになった時,競争の面で甚大な影響を及ぼした。消費者に様々な選択肢を提供できるよう,十分な競争を促進する政策立案を目指したい」と話す。「私はArmstrong氏に,そして通信業界の全ての人に約束をした。全ての事業者に公正な機会を提供します,と。今後,議論についてもすべて公開していく」(Tauzin氏)。

 Armstrong氏は,競争を促すためとして3点を提案した。まず,「FCCは,地域電話会社に対して,電話回線の賃借契約で参入企業に適当な割引を提供するよう義務付ける」こと。次に,「政府の政策担当者は,新規参入が制限されてしまうようなルールを撤廃すべき。ケーブル回線の開放問題など」。最後が,「州政府や連邦政府は,サービスの内容や料金などの決定において,参入企業が不当に差別を受けることなく公平な取り決めがなされるよう規定する。地域電話会社はキャリア向け事業と一般消費者向け事業を分割する」こと。

 Armstrong氏は,「場合によっては,ただちに地域電話サービス市場から撤退する」とも付け加えた。ちなみに,米Sprintはすでに地域電話サービス市場から撤退している。

 Tauzin氏は,「通信改正法はこれまでにも変化や競争を十分促し,機能してきた」と話す。しかし,広帯域通信サービスについては,「明らかに十分とはいえず,現状では電子商取引やニュー・エコノミーの成長を脅かし兼ねないような状況だ」としている。

 「1996年に議会が犯した過ちは,FCCの改革どころか,当局が電話事業や広帯域サービス事業などの参入企業に対しバリケードを作ってしまったこと。これを撤去することが私の目標だ」(Tauzin氏)

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