5月半ばに三菱電機と第3世代(3G)携帯電話向けチップセットの開発で提携した米Intelが,また日本の携帯電話機メーカに食い込んだ。東芝が携帯電話機に,米Intel傘下の米DSPC(DSP Communications)が開発したベースバンド処理LSIを採用したのだ。DSPC社が米国時間5月26日に明らかにした。

 『ポスト・パソコン時代』を牽引するアプリケーションの一つが,モイバル機器を使ったインターネット・アクセスであるのは間違いないところ。第3世代や第2.5世代の携帯電話をめぐる競争は熾烈だ。確かに,「2005年に携帯電話は全世界で10億台も稼働する。一方のパソコンは,2002年までは現在の携帯電話の数(3億500万台)に達しない」(Gartner Group社)。携帯電話を見逃す手はない。

 AMD社の激しい追い上げを受けているとはいえ,パソコンの世界ではx86プロセサで強みを発揮しているIntel社。しかし,携帯電話となると勝手が違う。攻め手を見出せないでいた。そのIntel社が,このところ実に積極的である。

 前面に押し立てているのが,組み込み向けRISCプロセサ「StrongARM」とDSPC社(99年10月にIntel社が16億ドルで買収)のDSP,そしてフラッシュ・メモリの3点セットである。

 三菱電機と共同開発するのは,この3点セットを組み合わせたチップセット。三菱電機は,2000年に2500万台,2003年に6000万台の携帯電話を世界市場に投入する計画を立てているが,2003年時点で半導体部品の50%をIntel社から調達したいとしている。一方の東芝は,アナログ-デジタル混在のASIC「D5315」をベースとしたチップを採用する。D5315はDSPC社の「PDCharm」製品系列の一つ。東芝が採用したLSIには,英ARMのCPUコア「ARM 7」,米Texas InstrumentsのDSP「LEAD」,DMAコントローラなどの周辺回路を1チップに集積している。

 この3点セット,なかなか強力である。とりわけフラッシュ・メモリは,品不足が深刻でまったくの売り手市場。携帯電話メーカは,のどから手が出るほど欲しい代物となっている。実際,携帯電話メーカはフラッシュ・メモリをはじめとする部品の確保に躍起だ。たとえばスウェーデンのEricssonはIntel社と,フランスのAlcatelが米Advanced Micro Devices(AMD)とそれぞれ複数年の契約を結んでいる。いずれも数億ドルを超える規模の提携である。

 三菱電機も,「提携のなかには,現時点でIntel社からフラッシュ・メモリを安定供給してもらうという条項は含まれていない。フラッシュの安定供給は,あくまでチップセットの出荷が始まる2002年からということになる。しかしIntel社と手を組んだ背景として,部品調達が大きなファクタになっているのは事実だ」(三菱電機 常務取締役で通信システム事業本部長の中西道雄氏)とIntel社との提携でフラッシュが重要な位置を占めたことを明らかにしている。

 もう一つ注目されるのがStrongARM。ここにきて,やっと活躍の場を見つけた感がある。

 StrongARMは,もともとは米Digital Equipment Corp.(DEC)が開発したARMアーキテクチャのプロセサである(東芝が採用するARM 7の上位に当たる)。98年5月にDECの半導体部門を買収したのに伴って,Intel社が手に入れた。StrongARMは,処理性能に比べて消費電力が低いところに特徴をもつ。スペック的には優れたチップだが,これまでは普及の糸口がなかなかなかった(Windows CEマシンで使われた実績はあるが,大きな流れとはならなかった)。

 ようやく,「今年から,第1世代のStrongARMを使った機器の量産が国内で立ち上がる段階。ネットワーク機能を組み込んだ民生機器に搭載される。ディジタル音楽配信やBSディジタルとの組み合わせも視野に入れている」(Intel社の日本法人インテル)。さらに次のステップでねらっているのが3G携帯電話というわけだ。ここでは,DSP機能などを取り込んだ第2世代のStrongARM「SA-2」(詳細は「IntelがStrongARMに本腰,0.18μmの先端プロセスを投入」を参照)を中心に据える。

 Intel社は,「インテルとジャストが携帯機器で提携,ATOKをStrongARMにポーティング」「Intel,MPEG-4ソフトで米社と提携,StrongARM搭載の3G携帯電話でビデオ再生」などの布石も打っているが,StrongARMが3G携帯電話で主流になれるかどうかは微妙なところ。巨大市場だけに,他の組み込み向けプロセサも主役の座を虎視眈々とねらう。今後どういった勢力図が描かれていくのかが明確になるには,いましばらく時間がかかりそうだ