日本では映画「shrek(シュレック)」がつい先日封切られたが,これはアメリカで今年春に大ヒットし,いまだにロングランを続けている。キャラクタ(登場人物)から背景の景色まですべてが,最先端のCG技術を駆使して作られた映画だ。この映画をご覧になる方は,そこに登場する人工CG俳優の,あまりのリアルさに驚嘆するだろう。

 映画の主人公シュレックは「鬼」である。実在しない鬼を「リアルな」と表現するのも何か奇妙に思われるかもしれない。しかし肌の質感や,その上をよぎる陰影,さらには登場人物たちの何気ない仕草や表情が,まるで「本物の生き物」のような迫真性を醸し出しているのだ。

 今年(2001年)のハリウッドは,このシュレックに代表される「CG俳優」に席巻された,と言っても過言ではない。つい最近公開された「Monster Inc.」,夏に公開された「Final Fantasy」などはいずれも,Shrek同様に全編がスーパー・リアルなCG映像で構成されている。これにジュラシック・パークや,2002年春に公開される「Star Wars episodeII」のような,実写とCGを組み合わせた映画まで含めれば,CG俳優は今やハリウッド映画の中で,全く当たり前の存在になってしまった。

この先,何が起きるのか?

 問題はこの先,何が起きるかだ。これについて,たとえば,読者は以下のような話を,どう思われるだろうか?

 ハリウッド映画に出演するはずだった人気女優が,突然,出演をキャンセルした。彼女の代役として登場した新進女優は絶世の美女。映画は大ヒットし,この若手女優は一夜にしてスーパー・スターになる。

 ところが誰一人として,この女優に直接会った事がいない。ファンが彼女の周りに群がりサインをねだろうとしても,彼女は決してファンの前に姿を見せない。それどころか,映画制作スタジオの現場で働く関係者でさえ,彼女を直接見た事がないのだ。一体,何が起きているのか?

 その答えは,「彼女は実在しない」CG女優。映画を作ったプロデューサーは,彼女が大スターに成長してしまったため,今さら「偽者」とは明かせなくなってしまったのだ。プロデューサは,仕方なく「だませるところまで世間をだましぬく」覚悟を固める・・・

 以上は,2002年春に公開されるハリウッド映画「Simone」のシナリオである。この映画がさらに面白いところは,CG女優「Simone」を本当にCGで作るのか,それとも人間の俳優に「CG女優」の役を演じさせるのか,という点にある。Simoneを制作する映画会社New Line Cinemaは,「どっちにするか」をいまだ明らかにしていない。ここまで行くと,もはや映画自体がSurreal(超現実)な雰囲気を帯びてくる。

驚くべき領域に進化するCG技術

 しかし本当に,こんなことが起こり得るのだろうか?映画ShrekやFinal Fantasyに登場するCG俳優達は,だいたい100万~125万ポリゴンを使って作り上げられた。これ以前のハリウッド映画に登場していたCG俳優は,約20万ポリゴンでできていた。データ量を5~6倍に増加するだけでも,かなり「本物」に近づけることができるようだ。

 さらにShrekのCG俳優は,CGアニメータたちが,「まず俳優の骨格を作り,これに筋肉,靭帯,皮膚と順順に積み重ねて行く」ことによって制作された。CG俳優は,人体の生理学的構造に基づいて作り上げられたのだ。こうした異常なまでに生真面目なCGアニメ制作の向こうに見えるのは,「人間の俳優をCG俳優がとって代わる」という,まさしく映画「Simone」の世界なのだ。

 これは,もはやSF的杞憂の範囲を超え,現実の脅威となりつつある。映画Simoneの制作に対しては,ハリウッドの俳優組合「The Screen Actors Guild」が抗議を表明している。また興行的失敗に終わったとはいえ,Final Fantasyに対しては俳優Tom Hanksが同じような懸念を漏らしている。

 「そんなに本物そっくりにしたいなら,最初から人間の俳優を使えばいいのでは」という意見は,当然存在するだろう。しかし実際にShrekをご覧になった方にはお分かりの通り,あの「本物」とも「作り物」ともつかぬ異常なキャラクタたちは,現実を超える奇怪な現実感と不可思議な魅力を備えている。最先端のCG技術とハリウッド映画の融合は,全く未知の驚くべき領域へと進化しつつあるようだ。