10年以上に渡る米国の景気拡大が,「公式に」終りを告げそうだ。NBER(National Bureau of Economic Research)という諮問機関があり,ここがリセッション(景気後退)を宣言した時に,米国の景気拡大に「公式の」ピリオドが打たれることになる。

 NBERは23日にミーティングを開いて,「リセッション入り」を宣言するかどうかの検討をした。結果は早ければ26日にも発表される。今の情勢では恐らく,米国の歴史上,最も長く続いた景気拡大に終止符が打たれるであろう。

 米国では既に1年以上に渡って,IT産業を筆頭に企業業績は軒並み悪化の一途をたどってきた。就業者数も今年3月をピークに減少に転じ,以来90万人の職が失われた。雰囲気的には既に不況の「真っただ中」にあり,「いまさらリセッション宣言もないだろう」という気がする。政府機関が発表する景気指標は,日本と同じく米国でも実態経済を後追いするようだ。

B2Cは前年比増だが,成長率は鈍化

 気の早いエコノミストの中には,「米国経済は既にリセッションを脱した」と言う人もいるくらいだ。確かに失業保険の申請者数は4週連続で減少し,住宅の販売件数や消費者支出も好転している。米国は22日の感謝祭を境に「holiday(歳末)商戦」に入ったが,「悪い悪い」と言われながらも前年比で2.5~3%増の2060億ドルの売上げを達成しそうだ(National Retail Federationの予想)。「史上最悪の歳末商戦」などと言われているが,それは伸び率が史上最低なだけである(確かに2000年は前年比で3.9%伸びた)。

 ただし,個人消費の好転だけを材料に,リセッション脱出を宣言するのは,少し気が早いようだ。パソコンや通信機器など,米国経済を牽引するIT業界は在庫処分があまり進んでいないようだ。様々なエレクトロニクス製品が歳末商戦突入と同時に,大幅なディスカウント価格で売られている。

 オンライン小売業,いわゆるB2Cの業績予想はどうか。Jupiter Media Metrixによれば,歳末商戦期間中の米オンライン小売業界の売上げは,119億ドルに達する見込み。前年同期比で11%増である。ただこれも2000年は,前年同期比で50%も伸びているから,伸び率から見ると,「成長が鈍化している」と言える。

 ちなみに通年で見た場合,2000年のB2C売上げは483億ドル。2001年は第1~第3四半期の9カ月間で333億ドルである(出典Forrester Research)。仮に歳末商戦を中心とする第4四半期で売上げを伸ばしても,通年では前年並みか,前年をわずかに凌ぐといった程度に終りそうだ。米国の小売業界全体に占めるオンライン小売の比率はまだ1~2%に過ぎないが,この段階で早くも頭打ちの傾向を見せてしまったことになる。

販路の多様化を目指す大手小売業者が,B2C復活のカギを握る

 Forresterの結果を見る限り,B2Cのスランプは既に9月のテロ以前に始まっている。ITバブル崩壊を経て無数のドットコム企業が業界から姿を消し,生き残ったアマゾンやヤフーなど主力オンライン業者の成績も今一つぱっとしない。一方でJ.C. PennyやMacy’sといった伝統的小売業者が立ち上げたオンライン部門,いわゆる「クリック&モルタル」は,これから事業を本格化しようという段階だ。B2Cが再び急成長モードに復帰できるかどうかは,大手小売業者がオンライン・ビジネスにどの程度の力を注ぐかにかかっている。

 一連のテロ騒動を経て,店舗を構える伝統的小売業者は販路を多様化させることの重要性に気づいた。つまり「テロを恐れて,店舗が並ぶ大型モールに足を運ぶ客が激減する代わりに,オンラインで買い物をする人が増える」という見方がある。これとは正反対に「消費者が炭素菌テロを恐れて,商品を配送するオンライン小売業者の売上げが落ちる」という見方もある。テロ騒動はおそらく一時的な要因として終るだろう。しかし今後,経済環境がどう転んでも対処できるようにするには,小売チャネルを分散させるのが一番だ。