世界貿易センター・ビル廃墟近くの小路が開放され,一般市民が自由に行き来できるようになった。不謹慎な話だが,全米各地から多数の観光客が押し寄せ,写真を撮って帰って行く。

 こうした人たちのなかには,かなり高性能のビデオ・カメラとマイク,三脚などを抱えたグループが少なくない。一見,テレビ局のクルーという印象なのだが,そんなはずはない。プレスIDを持った“本物”の職業ジャーナリストは,警察が作ったバリケードをくぐって,もう一段内側に行くことができるからだ。観光客に混じってこんな所にいるはずがない。

 彼らはインターネットに情報を流す,アマチュア・ジャーナリストである。しかし素人といって見くびってはいけない。今回,航空機がビルに衝突したのをとらえた映像も,また摩天楼崩壊の瞬間を至近距離からキャッチした映像も,全て現場近くに居合わせたアマチュアが撮影したものだ。

 これらは米国の主要テレビ局を通して,繰り返し放送され,さらに日本をはじめ世界中のテレビ局でも放送された(もちろんインターネットでも流されている)。考えようによっては,誰でも凄い報道をできる時代なのだ。ジャーナリストには,医師や弁護士のような資格は必要ない。プロとアマの境界が実に曖昧な専門職である。

 現在インターネットには,いわゆる「Web Log」と呼ばれるホームページが多数存在する。これはアマチュア・ジャーナリストの情報を集めたウエブ・サイトである。良く知られたところでは,http://www.kottke.orghttp://www.siliconalley.comといったサイトがある。その内容は玉石混交で,正直なところ全体をざっと見渡すだけでも徒労感を憶えるが,確かになかにはハッとさせる情報も含まれている。

 プロの報道機関,特にテレビ局は社会に与える影響力があまりに大きいために,うかつなことは言えない。結果として情報は組織的に管理され,社会的にコンセンサスのとれた内容となりがちだ。社会情勢を注意深く観察しながら,「まあ,これくらいの突っ込み方,表現なら構わないだろう」というところで,主張内容を抑える傾向がるのは否めない。

 それでも,時に過激な表現や行き過ぎた報道,さらには誤報も発生する。しかし,それはその時点で社会にそれを許す雰囲気があるからだ。ヒーローを賞賛したり,極悪非道の大悪党を非難するのは実に簡単。そういうときにメディアは,ここぞとばかりに徹底的にやる。それなりにコンセンサスがとれているという点に変わりなく,どのメディアの報道も似通ってくる。

 これとは対照的にWeb Logの方はアマチュアが趣味で流している情報だから,好き勝手なことが言える。その結果,主要メディアが生み出したトレンドから外れた,意表をつく視点が提示され,それが新鮮な印象を与える。

 たとえば今回のテロ事件に関する報道では,米国の主要メディアは一様に,報復攻撃に出る政府を支持している。しかし,実際にテロを目の当たりにしたニューヨーク市民の反応はちょっと違う。テロ組織によるカウンター・アタックが怖いから,武力攻撃とは別の手段を考えてくれないか,というのが正直な感想である。そういう本音が結構,Web Logには載っている。

 もちろんアマチュアの流す情報にはムラがあり,独断的で信憑性に欠ける内容が少なくない。非常に重要な局面で,こうした情報を信用するのは危険である。趣味でやっているのだから,間違っていても我々にそれを非難する権利はない。

 一つ言えるのは,インターネットというメディアが多様な意見,これまでは埋もれていた見方をすくい上げる機能をしっかり果たしていることだ。そして,それを参考にするのも,それに基づいて行動するのも読者の勝手だが,責任は全て読者にあるのだ。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)

1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年),「わかる!クリック&モルタル」(ダイヤモンド社,2001年)がある。