音楽ファイル交換サービスを手がけていた米Napsterを巡る裁判は一段落したが,これに懲りたレコード業界は新たな方向に動き出した。コピー防止機能(プロテクション)を組み込んだ音楽CDを開発中なのだ。
コピー防止機能が音楽CDに標準装備されるようになれば,音楽CDのコンテンツを別のCDに書き込み,これをパソコンから聴くといった楽しみ方ができなくなる。5大レコード会社は公式しは発表していないが,コピー防止機能付き音楽CDのテスト版が欧州市場などで出回り始めているといわれる。すでに,Open Secret(公然の秘密)となっているのが現状である。
このコピー防止技術に共通するのは,音楽CDの記録内容に意図的にエラー・データを付加することである。このエラー・データは音楽用CDプレーヤでは無視されて問題にならないが,よりエラー検出機能の高いパソコンでは決定的な障害となる。その結果,音楽の演奏がストップしたり,歪(ひずみ)が聞こえてしまう。結果的に,パソコンを使った「焼き付け作業」を事実上意味のないものにしてしまう。
こうした仕組みのコピー防止策なので,たとえ主要レコード会社が秘密裏にフィールド試験を進めたとしても,早晩バレる運命にあった。そして実際,明るみに出てしまった。
米インディーズのMusic City Recordsは主要レコード会社に先駆けて2001年5月に,違法コピー防止機能付きのCDを発売した。ところがこのCDは,一部の車載のCDプレーヤ(カー・ステレオ)で聴けないのだ。最近のカー・ステレオは,パソコンのCD-ROMプレーヤと同じ方式を採用していることが原因だ。主要レコード会社も,このインディーズ・レーベルとほぼ同じ方式を採用しているため,彼らのテストでも同じようなトラブルが予想される。
音楽CDを焼きつけることは,今や一般消費者のあいだで普通の行為になっており,いわば既得権化している。一節によればブランクCDは既に世界中で50億枚が出回り,CDレコーダは1億台も出荷されるているという。一大産業を形成している訳だ。
ここまで普及してしまった以上,いまさら「コピーを許しません」と言うのは,事実上難しいのではないだろうか。主要レコード会社が商品化するのはかなり難しいと,筆者はみている。
(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net)
■著者紹介:(こばやし まさかず)
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年),「わかる!クリック&モルタル」(ダイヤモンド社,2001年)がある。
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