長引くIT不況のなか,WWWに現れる広告の頻度が増している。煩わしいほどだ。日本のサイトではそれほどでもないが,米国のWWWページをアクセスすると嫌になるほど多くの広告が顔を出す。特に気に障るのが,画面上に突然飛び出すポップアップ広告。これが立て続けに出てくると,一気に画面が被われてしまうようなことさえある。

 なぜこんな事態に陥ったのか。2000年にネットバブルが弾けて以来,ベンチャー・キャピタルや株式市場から,Eコマースをはじめとしたネット・ビジネスに流れ込む資金が急激に細ってしまったからだ。

 この結果,WWWで事業を営む企業は広告に頼る以外に収入の道がなくなった。さらにクライアント(広告主)の方も財布の紐が固くなり,広告を出す以上はより大きな効果を期待するようになった。逆に広告を載せるネット事業者側は,売り手市場のなかでクライアントに頭が上がらない。どうしても,広告主の意向が通る傾向が強くなる。結果として,同じクライアントの広告が短い時間に何度も現れる事態を招いた。

 こうしたなか,ウエブ広告を全て排除する「広告ブロッカー」が再び脚光を浴びている。広告ブロッカーが生まれたのはバブル絶頂期の1999年だが,当時は今ほど広告が鼻につかなかったので,それほど必要とされなかった。これが今や利用者が急増中である。

 よく使われている広告ブロッカーには,「AdSubtract.com」「WebWasher」「Junkbuster」などがある。いずれも広告だけでなく,ユーザー情報を把握するCookieなどもブロックする。

 最初の広告ブロッカーを開発した米AdSubtract.comによれば,利用者数は99年には1万人に過ぎなかったが,現在は50万人にも及ぶという。2002年の末までには500万~1000万人に膨れ上がると,強気の予測を同社は立てている。AdSubtract.comは現在,米国の主要なパソコン・メーカーに働きかけて,パソコンの新製品に広告ブロッカーをプリインストールする計画を進めている。

 AdSubtract.comは,Cookieやポップアップ広告など特定の要素を排除するブロッカー(最低価格15ドル)から,全ての広告を排除する完全版(30ドル)までを用意する。これとは別に無料版も提供しているが,実はこれでも十分役立つ。

 無料版を立ち上げてからインターネットにアクセスすると,ウエブ広告を排除するたびに,「パン,パン」という銃声がする。「広告を撃ち落した」という意味なのだろう。ウエブ・サイトに飛んだ瞬間に,「パパン,パンパン・・・」と数え切れない銃声がする場合もあり,改めて広告の頻度に驚かされる。

 広告ブロッカーの普及は煩わしいウエブ広告に悩むネット利用者には朗報だが,ただでさえ収入源が絞られているインターネット事業者にとって由々しき事態を招く。特にニュースなどコンテンツ・サイトでは事実上,今でも広告が唯一の本格的な収入源といってよい。もしこれが絶ち切られるとすれば,生存を脅かされる。

 情報提供に対し料金を請求するための手段を,早急に講ずる必要があろう。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年),「わかる!クリック&モルタル」(ダイヤモンド社,2001年)がある。

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