ソニー・コンピュータエンタテインメント,任天堂,米Microsoft。三つ巴のゲーム機戦争の行方が,5月17日から米国ロサンゼルスで開催された世界最大のビデオ・ゲーム産業見本市E3(Electronic Entertainment Expo)の関心をさらった。

 まずゲーム機業界では新参のMicrosoft社が,「Xbox」の発売予定日を米国時間11月4日に設定し,小売り価格を299ドルにすると発表した。続いて任天堂が次世代機「GameCube」を日本で9月14日,米国では11月5日に発売することを明らかにした。小売り価格は未定である。

 一方で首位を走るソニー・コンピュータエンタテインメントは,“次”に向けた布石を相次ぎ明らかにした。米America Onlineや米RealNetworks,米Cisco Systems,さらに米Macromediaとの提携を立て続けに成立させたのだ。WWWブラウザの「Netscape Navigator」やストリーミング・メディア再生ソフト「RealPlayer」「RealJukebox」などをプレイステーション 2(PS2)に導入する。PS2を家庭における総合情報端末へと脱皮させるための足場を固める。

 ソニー・コンピュータエンタテインメントのねらいはPS2を,電子メールやオンライン音楽・ビデオ配信など,パソコンに近い機能を備えたオンライン端末にすること。Microsof社がパソコン業界からゲーム業界への進出を図るのと,ちょうど逆の方向にソニーは動いているわけだ。

 こうしたクロスオーバー現象は,いわゆるポスト・パソコン時代に突入し,混沌として先の見えないIT業界を象徴しているといえそうだ。

逃げるソニー,追いつけるかMicrosoft

 過去の実績を見る限り,ソニーの圧倒的な優位は簡単には揺るぎそうにない。

 PSとPS2の累計出荷台数は米国だけで3000万台以上に達している。市場シェアは60%と過半数を占める。PS2は2000年3月の発売以来,世界全体で1000万台を出荷した。ソニーはPS2の生産を,月産200万台に引き上げる予定である。またゲーム・ソフト・メーカー側も,PS2の仕様にようやく慣れてきたところで,今後のゲーム・タイトルの増加が見込まれている。2001年中には280タイトルが出揃う見通しという。

 では,後発のMicrosoft社はどうか。

 同社がXboxに投じるマーケティング費は5億ドルと実に巨額だ。豊富な資金に物を言わせて,一挙にPS2との差を縮めようとしている。

 性能的にはPS2とXboxはかなり拮抗していると見られるだけに,Microsoft社の追い上げの成否は結局,出せば確実に売れるような主力ゲーム・ソフトを味方に取り込めるかどうかにかかっている。Xbox発売時点でMicrosoft社が見込んでいるゲーム・ソフトは15~20タイトルだが,懸念材料はスクウェアのような主力ゲーム・ソフト・メーカーからの明確な支持をいまだに得ていないことである(スクウェアはXbox向けソフトの開発を手がけているという情報もある)。

 ちなみに当のスクウェアは,コンピュータ・グラフィックスを使った映画「ファイナルファンタジー」(7月11日公開)の製作や配給に関し,米 Columbia Picturesと提携するなどソニー・グループとの連携を強化している。

 ゲーム業界の老舗である任天堂はGameCubeの発売開始日のほか,多機能バージョン(ハイブリッド・バージョン)の製造に入ることも明らかにした。ゲームだけでなくDVDやCDの再生もできるマシンである。ソニー・コンピュータエンタテインメントと同様に家庭における総合情報端末への道を探るわけだ。

 多機能バージョンの製造は松下電器産業が受け持つ。ゲーム機としてのGameCubeはグラフィックス描画能力の点で,PS2やXboxに若干見劣りがするといわれる。しかし任天堂は,「絵の美しさではなく,ゲームの面白さで勝負するには,我々のコンソールを使うのが一番」と主張する。

打ち出の小槌? オンライン・ゲーム

 三つ巴戦争の火ぶたが切って落とされたが,鍵を握るゲーム・ソフト・メーカーは「どのコンソールにも対応する」というマルチプラットフォーム戦略を打ち出しているところが多い。

 たとえばセガは,GameCube用に10タイトル,Xbox用に少なくとも4タイトルのソフトを提供するほか,昨年までライバルだったPS2支持も打ち出している。他の主力ゲーム・メーカーも,様子見を決めこんでいるところがいまのところ多い。

 今後ゲーム・ソフト・メーカーが力を入れるのは,インターネットを介した「オンライン・ゲーム」の市場である。PS2やXboxがネットワーク機能を“売り”にしていることから分かるように,その潜在的な需要は“莫大”というのが業界関係者の認識だ。

 現在のところ,オンライン・ビデオ・ゲームの出荷台数は「Ultima Online」「EverQuest」「Asheron's Call」などを合わせても70万本に過ぎない。しかし伸び率でみると50%成長とゲーム・ソフトのなかで最大である。

 オンライン・ゲームの長所は安定的な収入が見込める点。いったん購入されれば,その後も使用料として毎月決まった金額を利用者から徴収できる。またオンラインだから,多くの機能を一度にまとめて詰め込む必要がない。ユーザーの反応を見極めて,人気のある機能を逐次追加できるのからだ。

 いずれにせよ今年の年末にかけて,ソニー・コンピュータエンタテインメント,任天堂,Microsoftの3社を軸にゲーム業界がヒートアップすることは間違いない。これを縦糸とすれば,横糸はブロードバンド時代を見据えたオンライン・ゲームをめぐる動きとなるだろう。ゲーム業界から目を離せない状態が,いましばらく続くことになる。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)小林 雅一 近影
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年)がある。

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