米Yahoo!がアダルト商品ストアをこっそりと開設していたことが米国時間4月11日に,ロサンゼルス・タイムス紙の報道で明らかになった。約2年前にオープンした“Adult and Erotica”と呼ぶ特設ページのなかで,ポルノ・ビデオをはじめ数千点のアダルト商品を販売していたという。同紙によればヤフーは,“Adult and Erotica”ストアからアダルト商品を売る業者に対し,普通の商品の3倍にも上るコミッションを請求していた。

 この報道の直後から,消費者団体や保守的政治団体などの抗議がYahoo!に殺到した。ヤフーは即刻,“Adult and Erotica”ストアを閉鎖するとともに,「今後,アダルト商品は一切扱わない」と発表した。

 こうした商品を売ることは別に違法でも何でもない。では,なぜYahoo!が,特設サイト閉鎖に至ったのか。

 Yahoo!は世界有数の電子商取引サイトである。そのうえに,子供からお年寄りまで幅広い世代に利用されている。「それを知りつつ,アダルト商品を提供するのは無責任だ」という非難である。因みに米AOL Time Warnerはアダルト業者の広告を受け付け ないし,米Amazon.comはアダルト商品を販売していない。

 Yahoo!のドタバタ劇の背景には,同社の業績が急速に悪化しているという事情があるかもしれない

 同社は今年第1四半期の業績報告で,初の赤字を計上すると同時に,3500人の従業員の12%を解雇すると発表した。これに先立つ3月には,創立以来同社を引っ張ってきたティム・クーグル氏がCEOを退くと発表した。2001年に入ってから,欧州やアジア,カナダなど海外部門の経営責任者が次々と辞任しており,Yahoo!の屋台骨はぐらついている。これら悪材料を反映して,同社株価はこの1年で90%も下落した。

 崩れかけた経営基盤を立て直すべく,Yahoo!は2000年からビジネス・モデルの見直しに取り組んできた。たとえばオークションや企業向けサービス,リアルタイムの株価情報などを有料化すると同時に,利益の上がらない一部サービスをカットした。

 「あらゆる情報を無料で提供する」という創業以来のモットーを捨てたのだ。しかしながら,これら有料サービスから上がる収入はまだ微々たるもの。同社は「有料プレミアム・サービスは2001年中に収入全体の20%を占めるまで成長する」と予想しているが,現在のところ急上昇の気配はない。

 Yahoo!が有料化に踏み切らざるを得なかったのは,主要収入源である広告がどんどん減っているからだ。2001年の第1四半期の企業広告主は3145社と,前期の3700社から20%近く低下しており,今期も減少傾向に歯止めがかからなかった。

 アダルト・サービスはこれまでのところ,WWWで成功が確実なほとんど唯一のビジネス・モデルである。Yahoo!にしても,さまざまなビジネスを試した末に手を着けたのだろうが,あえなく頓挫してしまった。

 投資業界のアナリストでは,「Yahoo!の業績は底を打った」とする見方と,「広告収入の減少はまだ続く」との見方が合半ばしている。株価がここまで下がると買収される恐れもあり,同社の行く末は予断を許さない。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)小林 雅一 近影
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年)がある。

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