レコード業界は本気で,オンライン・ビジネスに取り組もうとしているのだろうか。5大レコード会社は先週,たて続けにインターネットへの進出計画を明らかにした。しかし,いずれも抽象的あるいは複雑な計画だった。筆者は頼りない印象を受けたのだ。

 まず週明けの4月2日(米国時間)に,独Bartelsmann,米EMI Group,米AOL Time Warnerが米RealNetworksと共同で,自ら所有する音楽のライセンシング・ビジネスを始めると発表した。この三つのレコード会社は,RealNetworks社が2000年に創設した子会社MusicNetに共同出資する形で,音楽をライセンス供与するためのプラットフォームを作る。これを使って,他の企業が音楽を有料でオンライン配信するという図式だ。

 しかし今のところ決まっているのは,ここまで。実際にどのような形で音楽を配信するのか,料金はいくらになるのか,どの程度の楽曲が提供されるのか,という具体的な計画は明らかにされていない。

 続いて4日には,米Viacom傘下のMTViと米VH1が,5大レコード会社から約8000曲のライセンスを受け,これをオンラインで有料配信すると発表した。シングル曲の価格は99セント~2ドル49セント,アルバムは9ドル99セント~17ドル99セントの予定だ。当初はMTViらが運営するインターネット・ラジオから楽曲を流し,ここからリスナーが気に入った曲を今度はダウンロードして買う,という形になる。Bartelsmann社らによるMusicNet計画とは,直接の関係はない。

 さらに5日には,Sony Musicと米Universal Music(仏メディア・コングロマリットVivendi傘下のレコード会社)が,自らの所有する楽曲をYahoo!からダウンロードできるようにすると発表して続いた。ここでも価格などの詳細な計画は明らかにされなかった。両社は既に2000年に,Duet社というジョイント・ベンチャー企業を立ち上げ,2001年夏から音楽のオンライン配信ビジネスを始めると発表していた。

 この3社の計画するオンライン・ビジネスは,利用上の制約をかなりユーザーに課すとみられている。たとえば,CD-R/RWには書き込めない,あるいはハード・ディスク装置にダウンロードした音楽は期限がくると聞けなくなってしまう,といった措置が噂される。しかし,これで購入意欲がわくのだろうか・・・。

 米The Yankee Groupのアナリスト,Steve Vonder Harr氏は「レコード会社はオンラインの音楽配信ビジネスを複雑でわかりにくくするために,ベストを尽くしている」と皮肉な口調で語る。

 それもこれも,レコード業界がインターネットに対する不信感を拭い切れないないからだ。今回のような派手な計画を発表する前から,レコード会社は実験的なオンライン配信を繰り返してきた。しかし,商業的に成功しそうなケースは一例もないのである。及び腰になるのは当然なのだ。

 レコード業界の重い腰を上げさせたのが,米Napsterの展開したサービスであることは間違いない。違法判決を下されたものの7000万人もの登録利用者を獲得してしまったサービスだ。たとえNapster社のビジネスが継続できなくなったとしても,他の誰かがインターネットを使って音楽ビジネスの市場を奪ってしまうかもしれない。

 「うかうかしていれば,新参企業に既得権を奪われてしまう」という焦りが,レコード業界をオンライン・ビジネスへと駆り立てているのだ。しかし,本来やりたくないことを「嫌々ながらやっている」のが透けて見える。態度が煮え切らず,派手な発表だけで実行が伴わないのだ。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)小林 雅一 近影
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年)がある。

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