米Microsoftのゲーム機「Xbox」の開発が着々と進んでいる。プロトタイプが何度かIT関係の見本市に出展されたが,2001年1月6日から米国ラスベガスで始まった家電関係のConsumer Electronics Show(CES)にも展示されたMicrosoftの次世代ゲーム機Xboxとロゴ

 Xboxは,同社のCEOを退いてChief Software Architectに就いたBill Gates会長が,自ら陣頭に立って開発を進める戦略製品だ。733MHz動作のPentium IIIプロセサと8Gバイトのハード・ディスク装置,64Mバイトの主記憶を搭載している。

 パソコン業界をリードするMicrosoft社は21世紀に入った今,大きな変革を迫られている。ポストPCと呼ばれる業界のうねりのなかで,IT業界の中心軸はパソコンから「Information Appliance」と総称される情報機器に移行しつつある。Information Applianceには,第3世代(G3)携帯電話,インターネット・アクセス機能付きのPDA(携帯情報端末),次世代ゲーム機,日本メーカーが得意とする「情報家電」と呼ばれる製品が該当する。

 この流れにMicrosoft社は今のところ,うまく乗り切れていない。この状態に,同社の株式市場は敏感に反応した。2000年夏に,独禁法裁判の一審で敗れて以来,年末までに株価は60%も下落したのだ。確かに敗訴による心理的影響やIT業界全体の不振が影響している面はある。しかし,「Microsoft社は変革の波に乗り遅れているのではないか」と市場が懸念している影響が少なくない。

 Microsoft社の創業以来の歴史を振り返ると,同社の急発展は,いずれもライバル企業が開発した技術を上手く入手したことが契機となっている。MS-DOSは,米Seattle Computer Productsが開発した基本ソフトのライセンスを,Gates氏らが買い取り改造したところから生まれた。同社を急成長させたWindowsは,米Apple ComputerのMacOSの影響を受けている。さらに,そのMacOSの原型は米XeroxのPalo Alto Research Center(いわゆるPARC)の基礎研究にある。

 Microsoft社が成功をおさめた最大の理由は結局,パソコン(IT)業界のトレンドを見極めたGates会長の眼力にあったのだ。次世代トレンドにマッチした技術を素早く入手し,それを巨大ビジネスに発展させる手腕にかけては,Gates氏の右に出る者はいなかった。

 「ポストPC」と呼ばれるトレンドがおぼろげながら見え始めた1997年から,Microsoft社は従来と同じ戦略で,変身に向けた準備を始めた。200億ドルを軽く超えると言われる軍資金を元手にした猛烈な企業買収である。それがピークに達した99年頃になると,Microsoft社が新興企業を買収したという記事が経済紙に毎週のように載っていたものだ。買収した企業が抱える技術やノウハウから次世代の中核ビジネスが生まれることを期待しての,いわば「賭け」だった。

 ところがポストPCの波には,さすがのMicrosoft社も手こずった様子だ。その最たる例が,4億ドル以上もの大金をはたいて買収したWebTVである。WWWとテレビの融合というアイデアは,利益をMicrosoft社にもたらしていない(WebTVの創業者であるSteve Pearlman氏らはMicrosoft社のお陰で億万長者になった。その後のインターネット・バブルの引き金ともなった買収だった)。

 それ以外の買収も,どうもあまり目だった成果を上げていない。パソコン中心の時代には打ち出す戦略の多くが当たったGates会長の眼力も,ポストPC時代に入って陰りがみえ始めているということだろう。

 こうした環境のなかで着手した次世代ゲーム機Xboxは,基本的に自主路線で開発を進める(下掲の関連記事のようにゲーム・コンテンツ開発を中心に買収は行っている)。しかしMicrosoft社の周辺では,これを危険視する見方が強い。ゲーム機はハイリスク・ハイリターンで,従来のパソコン・ビジネスとは大きく異なる。また陣頭指揮に立つGates氏も,ゲーム機に対してさほど造詣が深くないといわれる。

 ただGates会長にとって心強いのは,かつて同社を退社した優秀なエンジニアが戻りつつあることだ。99年までのインターネット・ブーム時に,自ら企業を興すために退社した100人以上のエンジニアが,バブルが弾けた今,Microsoft社に戻ってきたという。

 ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューでGates氏は,「彼らは現実世界を知って,帰ってきたのさ」と太っ腹なところを見せている。先行き不透明なポストPC時代,頼りになるのは,やはり気心の知れた昔の仲間ということなのだろうか。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)小林 雅一 近影
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年)がある。

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