毎年11月第4木曜日の感謝祭(Thanksgiving Day)から,米国の小売業界はクリスマスを頂点とする歳末商戦に突入する。99年はこの時期を経て,業績が悪化したドットコム小売企業の株価が急落し,ここからインターネット業界のバブルが弾けた。ひいてはIT産業全体の相場も崩壊してしまった。

 この1年で多くのドットコム小売企業が倒産したり,買収されたりしたが,淘汰(とうた)は未だ完全に終わっていない。ここまで息も絶え絶えで,何とか生き永らえてきたインターネット小売業者の多くは,この歳末商戦後に業界から姿を消すと見られている。

 最終局面を間近に控えたドットコム企業は,生き残りを賭けて目の色を変えている。たとえば株価が,99年10月につけた最高値の86ドルから,先週はついに1ドル台にまで落ち込んだ米eToys.comは,まさに「崖っぷち」に追い込まれている。99年のクリスマス商戦では,親たちから「子供にプレゼントするはずの玩具が,クリスマス・イブに届かない」という苦情が殺到した。

 「同じ轍(てつ)を踏むまい」とeToys.com社は今年,ベトナム戦争でPurple Heartと呼ぶ勲章を三つも授与された物資輸送担当の元軍曹を雇い入れ,製品配送システムの再構築に当たらせた。さらに同社はなけなしの資金をはたいて,バージニア州にフットボールのスタジアムが22個収まるという巨大配送センターを建設するなど,書き入れ時に備えて万全の態勢を整えている。

 元軍曹は,「私は絶対成功するし,株価も間違いなく持ち直す」と自信満々だが,eToys.com社を見つめる周囲の目は厳しい。玩具のオンライン市場には今年,米Amazon.comと米Toys"R"usが共同参入しており,競争は激化している。eToys.com社は2000年の売り上げを,99年の2倍の2億1000万ドルと見込んでいる。しかし,これを大きく下回るようだと,VC(ベンチャー・キャピタル)からの追加投資は期待できない。そして手持ちの運営資金だけでは,2001年いっぱいは持たないと見られている。

オンライン小売業者の4割は既に黒字

 しかし逆に,生き残った企業が手にする報酬は大きい。米Jupiter Media Metrixの予想では,2000年の歳末商戦におけるオンライン小売業界全体の売り上げは116億ドル。99年の70億ドルを大幅に上回る。すでに前哨戦から,その兆候は表れている。感謝祭を前にした1週間のオンライン売り上げは10億ドルと,前週の2倍に達した。

 オンラインで買い物をする消費者の数は3500万人に及ぶ。これも99年の2000万人をはるかに上回る見込みだ。またこのうち630万人が,「買い物の半分以上をオンラインで済ませる」とみられている。皮肉なことに,ドットコム小売企業が淘汰されるのと期を同じくして,オンライン・ショッピングが本格化しようとしているのだ。

 業界の淘汰が進むのと同時に全体のパイが広がれば,生き残ったドットコム企業の懐には,より多くの分け前が転がり込む。2001年4月の決算報告で業績アップをアピールできれば,VCからの追加投資も期待できる。こうした点で今年の歳末商戦は,ドットコム小売業者にとって正念場なのだ。

 「2000年の歳末商戦を生き残ったドットコム小売企業から,2001年には営業利益を上げる企業が続出する」と専門家や業界関係者はみている。Amazon.com社を筆頭に,大型Eコマース企業が未だに赤字を垂れ流していることから,「オンライン小売は絶対に黒字化できない」という先入観が生まれているが,これは迷信である。  たとえば米Boston Consulting Groupが221のオンライン小売業者を対象に実施した聞き取り調査では,すでに38%が営業利益を上げている(調査は99年に実施され,結果は2000年5月に発表された)。

 全体のうち最も成功しているのは,カタログ販売業者が手掛けるオンライン・ビジネス。こうしたビジネス全体の72%が黒字を計上している。次に大きな成功を収めるのは,年間売り上げ50万ドル以下の中小企業(ブリック・アンド・モルタル業者)が始めたオンライン・ビジネスである。Boston Consulting Groupでは,「ターゲットをニッチ市場に絞って,マーケティング・宣伝費用を節約すれば,オンライン小売業は儲かる」と結論づけている。

 結局,失敗が目立つのはAmazon.com社など,オンライン小売を専門にする大型業者(「Pure Player」と呼ぶ)であって,彼らが業界全体のネガティブな印象を生み出しているようだ。しかしオンライン小売業界に占める「Pure Player」の比率は全体の28%に過ぎないという。

失敗から学ぶ,ドットコム成功の条件

 米Harvard Business SchoolのThomas Eisenman教授は,ドットコム小売企業がこれまでの失敗から学んだ教訓として,以下の2点を挙げる。

(1)No Magical Automatics(自動化の誤り):

 「小売業は非常に労働集約的な業態である。製品を選び,梱包し,顧客に送り届け,その苦情を処理する。ドットコム企業が抱いた幻想は,これら全ての作業がインターネットにより自動化できると錯覚したことだ。しかし結果は,その逆だった。在庫商品の管理,製品の配送など,ブリック・アンド・モルタル業者が蓄えたノウハウを持たないドットコム企業には,消費者の苦情が電子メールや電話で殺到した。しかし彼らには,それを処理する顧客サポート体制も整っていなかった。逆にカタログ通販業者がインターネットでも成功したのは,これらのノウハウを既に持っていたからだ」。

(2)Perilous Get-Big-Fast strategy(破滅に至る急拡大路線):

 「利益を上げる前に巨額の先行投資をして市場シェアを奪うというビジネス・モデルは,Amazon.com社が始めたものだが,これは未だに正しいかどうか証明されていない。むしろトップ・グループを除けば,それに追随した2番手グループにとって,このモデルは明らかに“間違い”だった。ブランド・ネームは金では買えない。ディスカウントや景品で一時的に客を引きつけることができても,オンラインの客はすぐにライバル小売業者に乗り換えてしまう」。  

 Eisenman教授は,「以上の点を直せば,ドットコム小売企業でも十分利益を上げられる」とみている。  ドットコム小売業者のなかで,営業利益を上げることに成功した数少ない企業の一つである米Send.comのCEO,Mike Lannon氏は,成功の理由を次のように語る。

 「まず業種の選択が正しかった。家庭に送り届けるギフトは,オンライン販売に最も適している。既存のブリック・アンド・モルタル業者と,上手に手を組んだことも成功の一因だ。Eコマースが始まったときに,『これからは仲介業者が要らなくなるので,コストが削減できる』と言われたが,我々の業界ではその逆だった」。

 さらに,こう続ける。「Send.com社はワイン販売からビジネスを始めたが,業界の規制のせいで複数の小売業者と提携してワインを販売しなければならなかった。ところが実際に試してみると,思いのほか上手くいくことがわかった。彼らは製品の在庫管理から流通まで一通りのノウハウを蓄えている。そうした点は彼らに任せるのが一番だ。これに気づいた我々は,ワイン販売だけでなく,レストラン経営から温泉ビジネスまで,業界ごとに既存の業者を取りまとめて,彼らのオンライン・セールスの手助けをする方向に路線転換した」。

 結論としては,「仲介業者を省くのではなく,我々自身が一種のオンライン仲介業者になった。これが成功の最大の要因だと思う」。  結局,Eコマースは工夫次第で儲かるのだ。「自動化の誤り」のような形で,インターネットを過大評価するのは間違いだ。しかし逆に,「インターネットは小売ビジネスには向かない」と決めつけるのも過小評価である。

 カタログ通販業者の成功から分かる通り,しっかりした商売の経験とスキルを持つ小売業者にとって,インターネットは業務を効率化し,顧客層や販路を拡大する強力な武器になるのだ。

(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所)がある。