米Nasdaqの株式が下げ止まらない。その直撃を受けているのが,電子商取引(e-commerce)関連の新興企業である。リテール(小売り)ビジネスを手がける,いわゆるB to C業者の株価が急落し,淘汰の時期に移行したことは以前に本コラムでも紹介した(「第60回:Party is Over:クラッシュ後のドットコム産業はどこへ行く」)。しかし,それだけではない。電子商取引で最大の期待を担う企業間取引(B to B)業者も,株式急落の影響をもろに被っている。

 企業間ビジネスの先駆けとも言える米Aribaの株価は,最高値の183ドルから先週末には55ドルへと70%下落。米Commerce Oneの株価も同じく165ドルから41ドルへと75%も急落した。彼らに続く2番手に位置する企業間電子商取引業者の株価も,軒並み70~90%下落している。

 企業間ビジネスは,今後の電子商取引で最大の成長が期待される分野だ。米Forrester Researchは,米国における企業間電子商取引の市場規模が2003年に1兆3000億ドルに到達すると予測している。B to Cビジネスの先行きに対する不安が募る一方で,企業間電子商取引には過大とも言える期待が寄せられた。その結果,数多くの新興企業がこの分野に進出した。

 企業間電子商取引の勃興を象徴する最大の出来事がこの2月に起こった。米Ford,米General Motors,DaimlerChryslerのビッグ3が結成したオンラインでの部品交換市場「Newco」だ。ビジネスが始まれば,推定取引額が3000億ドルという世界最大の企業間電子商取引市場の誕生となる。同じく2月には,小売り大手の米SearsとフランスのCarrefourが米Oracleと提携して,商品を調達する市場「GlobalNetXchange」を立ち上げた。こうした大手業者の参入と新興企業の誕生が相まって,企業間電子商取引が本格的な発展段階に突入するかと思われた。

 ところが,ことは思わぬ方向に進んだ。年初からの株式市場の急落で,彼らの目算が狂い始めたのだ。資金調達の主な手段であるIPO(株式公開)ができない。この結果,旗揚げしたのはよいがサービスを始められない業者が続出した。昨年,起業した企業間電子商取引業者のなかで,実際にビジネスを開始したのはわずか15%に留まっている。

 業界の期待を担うNewcoでさえ,当初予定していた6月のIPOは難しいのではないかとみられている。株式市場が軟調であることに加え,米FTC(Federal Trade Commission)が(Newcoをはじめとした企業間電子商取引市場は)市場の独占につながる恐れがあるとして,新たな規制の導入を検討しているからだ。このFTCの腰が定まるまでは,IPOにブレーキがかかったままになりかねない。

 仮に運良くIPOにこぎつけたとしても,業務が軌道に乗るまでには相当の時間を必要とする。米CyberManagementの予測では,これまでにIPOを済ませた400社の企業間電子商取引業者のうち,今年中に営業利益をあげられるのは12社に留まる。

 IPOまでに要する平均期間(2年半~3年)とあわせて,企業間電子商取引でお金をもうけるには,実に長い年月が必要なのである。結局,利益を出すまでに多くの企業は淘汰されることになる。

 5月下旬にサンフランシスコで開催された,電子商取引関連の会議「Association of Strategic Alliance Professionals Summit(ASAP)」では,B to B業者の大半は今後2年以内に店じまいするか,他の企業に吸収されるという結論が導かれた。期待先行の企業間電子商取引の先行きは,決して明るくはないのである。

(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net