6月26日から,米国ニューヨークのJacob Javits Convention Centerで開催された,第18回PC EXPO。毎年春秋にラスベガスで開催されるCOMDEXと並ぶ,全米最大級のパソコン関連見本市だ。ところが今年のPC EXPOは例年とは様変わりして,それが話題を呼んだ。その名称とは裏腹に,パソコン関係の展示がほとんど見られなかったのだ。昨年から始まったポスト・パソコンのトレンドを,改めて裏付けた格好になった。

 展示会場で特に目立ったのは,米Palm,米Handspring,ソニーらが発表あるいは展示したインターネット機能を備えた携帯情報機器(PDA)だ。いずれも背面のスロットから,小型の拡張ディスクなどを挿入して,様々なアプリケーションを追加できる点では共通する。たとえばPalm社は今回,Palm製品をSD(Secure Digital)カードに対応させることを明らかにした。SDカード対応の拡張スロットを用意する。

 Palm社は世界で400万台以上のPDAを売り上げ,市場の7割を押さえる。しかし市場全体がまだ小さく,本格的な普及段階に入ったばかりなので,競合他社との雌雄が決するのはこれから。また携帯電話が今後,インターネット・アクセスをなどの情報処理機能を付加してくると,PDAと携帯電話はいずれ同一の製品となる。そうなるとNTTドコモやフィンランドのNokiaなど,日本や欧州企業との競争が激しくなるだろう。

 Palm社は先発メーカの強みを顕示するために,PC EXPOで37社のアプリケーション・サービス・プロバイダ(ASP)との連携を発表した。そのうち25社が,新たに提携した企業である。いずれもインターネット経由で,Palm VIIなどにさまざまなサービスを提供する。このなかには,米United Airlineのように,PDAでフライト・スケジュールのチェックを行えるサービスなどが含まれる。

 Handspring社は,Palmシリーズを開発したJeff Hawkins氏がPalm社からスピン・オフして設立した会社だ。Handspring社のPDAは,Palmシリーズと同じ基本ソフト「Palm OS」を採用している。Hawkins氏から見れば,自分が開発した基本ソフトを他社からライセンス供与されるという,ねじれた関係になっている。一般ユーザが一見した限りでは,両社の製品にそれほどの違いは見当たらないが,Handspring社のPDAは,MP3プレーヤやGPS機能などが外付けで追加できる点が特徴となっている。

 ソニーは今回,PDAの試作機を会場に展示しただけで,製品の公式発表は行わなかった。基本ソフトには,やはりPalm OSを採用すると見られる。ディスプレイでデジタル写真を見ることができるなど,イメージ処理に特徴をもたせるようだ。

 PDAと並んで多数の観衆を集めていたのが,Transmeta社のブース。同社が5年にわたる秘密開発の末,今年1月に発表したCrusoeは低消費電力を特徴とするだ。可能な限り消費電力を節約したい携帯情報機器などで,今後採用が進むのではないかと期待されている。

 米IBM,米Compaq Computer,米Gateway,富士通,NECらが,自社製品に組み込む方針だ。会場には,Crusoeを搭載したノート・パソコンの試作機が展示されていた。かぶせるフタのない,ちょうどノート・パッドのような変わった形をしていた。Transmeta社はLinux生みの親であるLinus Torvalds氏が勤める会社だが,このノート・パソコンではWindowsが動いていた。

 今回のPC EXPOは,米Dell ComputerやCompaq社などの大手パソコン・メーカが,携帯型MP3プレーヤなど非パソコン製品を発表した。パソコン・メーカは今後,家庭内ネットワークのサーバとしてパソコンを売り込む方針だ。パソコンに蓄えられたデータやMP3ファイルを,PDAやポータブル・プレーヤにどの部屋からでもダウンロードできるようにする。

 Dell社とCompaq社が発表したMP3プレーヤは,家庭内の既設の電話線やEthernetを介してパソコンと接続し,データをダウンロードすることができる。無線ではないので,それほど便利という印象を受けないが,新しい方向に向かう第一歩とは言えるだろう。

 最後に展示会全体の印象を述べよう。正直な話,低調という感は否めなかった。

 確かにつぶさに観察すれば,今後のトレンドを示唆する展示はいくつかあった。しかし,誰が見ても凄いという製品は皆無だった。米国の情報機器見本市は,80年代から90年代前半をピークに,現在は完全に下り坂に入ったと言われる。主力メーカのなかには,本会場での出展を取りやめるところも珍しくない。今回のPC EXPOでは,Dell社や米Intelは本会場ではなく,市内のホテル会場を使って発表を行った。

 最近はパソコン(情報機器)関連の見本市よりも,CESやNABショーのような家電(民生機器)関連の展示会が活況を呈している。これもポスト・パソコンのトレンドを反映していると言えそうだ。

(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net