4月のハイテク株暴落後,米国では予想通り,倒産するドット・コム企業が増加している。正確な統計は存在しないが,たとえばカリフォルニア州オレンジ郡では,ハイテク産業の倒産件数が不動産業を抜いて,1位になったという。
「失敗しても,またチャンスは巡ってくるさ」という国柄からか,倒産したハイテク起業家を慰め,再起を促す企業Startupfailures.comが5月にスタートした。ホームページ( http://startupfailures.com/)にアクセスすると,まず次のような三つのメッセージが飛び込んでくる。
◎数多くのビジネス・プランのなかで,ベンチャー・キャピタル(VC)の投資を受けられるのは全体の0.1%である。
◎それら投資を受けた企業の60%は倒産する。
◎40%のベンチャー企業は,開業から5年以内に失敗する。
「君だけじゃないんだ。気を落とさずに頑張るんだよ」という意味を込めているのだろう。同サイトを立ち上げたNick Hall氏自身,過去に3度の倒産を経験している。
「これから数カ月にわたって,倒産するドット・コム企業の数はますます増えるだろう。しかし失敗したからといって恥ずかしがることは何もない。大切なのは自分が失敗したことを素直に認め,助けが必要だと宣言することだ。そこから再起への道が開ける」とHall氏は語る。
さてStartupfailures.comサイトの中身を見ると,「あなたの失敗例をフィードバックして下さい」「失敗例のディスカッション」「コーチの教え」「再起への情報サイト紹介」「再起の資金を蓄えるための仕事紹介」といった構成になっている。
いずれの項目もまだ情報量が乏しく,建築中の部分もある。内容も心許ない。「再起への情報サイト」をのぞいてみると,ダイエット療法が載っていたりする。Hall氏によると,彼自身が倒産したときにしばらくは呆然自失となり,食べては寝るだけの生活になってしまった。体重が急増し,体調を取り戻すまでに時間がかかった経験から,ダイエットの重要性を痛感したという。他に心理セラピーなどにも触れている。
全体として,再起に向けた現実的な手段を提示するというより,慰めに近い情報が中心だ。仕事紹介欄には3件の求人しかなかった。このままいくと,このサイト自体が倒産してしまうのではないか,と危ぶまれる。
こうした現状にも関わらず,Startupfailures.comはシリコン・バレーで話題となっており,好評なのである。「このビジネスは時宜を得ている。絶対に成功する」と言う人もいる。私が感心するのは全体を流れるユーモアの感覚である。数少ない求人企業の項目を見ると,「心に傷を負ったあなたを歓迎します」と書いている会社もある。
「少しふざけているのではないか。本気なのかな」と勘ぐりたくなるが,考えてみると,このサイトのアイデア自体が,何か可笑しみを漂わせている。筆者はけっして米国礼賛主義者ではないが,それでも感心するのは,失敗してもそれほど深刻にならない米国人の気質だ。これは日本との比較の問題に過ぎず,米国人だって解雇されたり,自分の会社が倒産すれば,落胆するに決まっている。それでも日本のように,それを苦にして自殺したというような話はあまり聞かない。
色々な理由があると思うが,自分の悲劇を他者の視点から見つめ,それを笑える強さが根底にあると思う。そして,このことが米国の強さの源泉となっていると考えるのは筆者だけだろうか。
(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net)