米司法省の合併差し止め訴訟を受けて,動向が注目されていた米WorldComと米Sprintだが,ついに7月13日に合併・買収の合意をキャンセルすると発表した。総額1150億ドルという,米国史上最大のM&A(企業の合併・買収)計画は白紙撤回された。



 司法省が合併阻止に動いたのは,極めて単純な理由からだった。



 「通信市場における競合企業が3社なら許せるが,それが2社になることは容認できない」というもの。現在,米長距離電話市場のシェアは,1位が米AT&Tの44%,2位がWorldCom社の26%,3位がSprint社の10%だ。合併が実現すれば,2社で市場の8割を占めるという寡占状況が生まれる。「消費者の選択肢が極端に狭まる」という理由で,司法省は独禁法の適用を決断した。



 この合併破談は,世界の通信業界再編の引き金になると見られている。業界関係者やアナリストのあいだでは,今後の新たな合併・買収に関する噂が飛び交っている。



 まず,焦点はSprint社。ドイツのDeutch Telecom,そして昨年のSprint社争奪戦でWorldCom社に敗れた米Bell Southが再び,買収に向けて乗り出すとの見方がある。特にDeutch Telecom社は1000億ドルの買収資金を既に用意し,交渉に向けて万全の体制を整えている。これが実現しなかった場合,米国の無線通信会社Voice Streamの買収に乗り出す可能性も取りざたされている。いずれも,米国の無線インターネット市場への足場を築くことが目的だ。同じ理由からNTTドコモも,Sprint社に食指を動かしているという。



 今回,Sprint社を買収するはずだったWorldCom社が,逆に売りに出されるという見方も生まれている。The Wall Street Journal紙によれば,WorldCom社のCEOであるBernard Ebbers氏は,ここ数カ月低迷している同社の株価を懸念して,WorldCom社を売りに出す可能性があると語った。交渉相手としてはDeutch Telecom社を考えているという。



 さらに信じ難いのは,あのAT&T社でさえ買収される(「する」ではない)側に回るという噂がある。米TCIや米MediaOneなど大型企業の買収で企業財政が疲弊したAT&T社は,ここにきて業績や株価が低迷している。同社の時価総額を競合他社と比べると,確かに株式交換で買われても,おかしくはないレベルにまで落ちているのだ。世界の通信業界は,まさに下克上の時代に突入しつつある。



 今回の買収破談に関して,もう一つ気になることがある。



 今年1月に結ばれた米America Online(AOL)と米Time Warnerの買収・合併計画の行方だ(このM&Aは総額1650億ドルで,それまでの最高額だったWorldCom-Sprintの合併計画を抜いて,世界記録を作った。この記録も今年3月の英Vodafon AirTouchによる独Mannesmann買収に要する総額1800億ユーロ(1787億ドル(当時))にあっさり抜き去られた)。米国を代表する巨大企業間の合併であるだけに,司法省の目が光るところだ。



 しかし独禁法の専門家によれば,WorldCom社とSprint社の合併では,長距離通信やインターネットなど同一市場での寡占化が懸念された。これに対し,Time Warner社とAOL社の場合は,コンテンツとそれを流すオンライン・メディアという点から見て,異なる市場を補完する色合いが濃い。したがって独禁法には抵触する可能性は低いという。果たして,・・・・



(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net



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