オハイオ州のストリップ・バーでおとり捜査が行われたとき,米連邦保安局(USMS:United States Marshals Service)で職業実習を受けている22歳の学生は,偽の身元情報を使って,店員としてそのバーに潜り込んだ。このとき捜査当局は,偽造した身元情報ではなく,オハイオ州の別の町に住む実在女性の身元情報を使うよう指示した。さらに当局は,この事実をその女性には伝えなかった。

 奇妙だがこれは違法行為でない。オハイオ州の身元情報窃盗に関する法律に照らすと,警察にはこうした行為が許されている。以下の2つの条件を満たしていれば,身元情報窃盗として告発されないのだ。

・法執行機関または認定済み不正対策団体,もしくはこうした組織の代理人などが個人の身元情報を利用する場合

・正式な捜査,情報セキュリティの評価,身元情報窃盗の調査,その他類似の目的で個人の身元情報を利用する場合

 この事実にあぜんとしたことは認めざるを得ない。警察には,実在の人々に割り当てられていない社会保障番号のリストがあって,おとり捜査などではこうした番号を使うと思い込んでいた。そこまでしないにしても,全く別の地域に住む人物の身元情報を,了解を得てから使うと考えていた(頼まれたら警察を助けるために協力を申し出るはずだ)。警察は,ランダムに選択した市民の身元情報を盗むのだ。私は盗まれたことはないが,そんな目にあったらどう感じるだろう?

http://www.officer.com/article/article.jsp?...

オハイオ州の問題の州法:
http://www.legislature.state.oh.us/bills.cfm?...

Copyright (c) 2005 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「State-Sponsored Identity Theft」
「CRYPTO-GRAM May 15, 2005」
「CRYPTO-GRAM May 15, 2005」日本語訳ページ
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。