<http://www.schneier.com/blog/archives/2004/10/...>

 ニュー・へブンの警察署は新しい捜査用ツールを導入した。ナンバー・プレート読み取り装置だ。自動車の速度を測るスピード・ガンと似た装置で,駐車中や走行中の車のナンバー・プレートを読み取り,警察のデータベースにリモート接続する。そして,その車や持ち主に関する情報を表示する。警察は,税金が滞納されていないか,車やナンバー・プレートが盗品でないか,未登録/未保険でないかを,その場でチェックできる。問題が見つかった車は,警察に持っていかれてしまう。

 一見したところ,この捜査手法自体は目新しくない。警察はこれまでも,ナンバー・プレートに基づいた捜査を行ってきた。ただし,新しい装置を使った捜査は,以下の点で異なる。まず,これまではナンバー・プレートを人が読み取っていたし,用途も限られてた。従来の人手による方法だと,駐車場にある車や交差点を通過する車すべてのナンバーを読み取ることはまず無理だ。装置を導入したとしても「ナンバー・プレートに基づく」という点では変わらない。だが,捜査の効率が変わってくる。

 科学技術は,捜査のあり方を根本から変え続けている。かつて捜査とは,トレンチ・コート姿の刑事が尾行することだった。この捜査方法は手間や経費がかかり,しかも犯罪の疑いが濃厚な場合にしか使えなかった。現代的な捜査は,ナンバー・プレート読み取り装置を警官に持たせたり,信号機に取り付けたりして,本部にいる警官がコンピュータでシステムを操作する。今も昔も捜査に関する基本的な考えは同じだが,根本的な違いがある。大規模な捜査が可能になるのだ。

 さらにこの捜査方法は,警察の権力と市民の権利のバランスを崩してしまう。

 コンピュータを使った大規模捜査は,通常の捜査手法として急速に広まりつつある。ニューヨークでは,「E-Z Pass」(訳注:有料道路用の料金自動徴収システム。日本のETCと同様のもの)が有料トンネルや橋を通過する車を記録している。また,携帯電話機を利用すれば個人を追跡できる。買い物は銀行やクレジット・カード会社が,通話記録は電話会社が,Webサーフィンの様子は通信会社が記録している。監視カメラもあらゆるところに設置されている。その気になれば,警察は「OnStar」追跡システム(訳注:GPSと連動し,事故などの非常時に自動車の場所を自動的に通知できるシステム)が装備された自動車に関するデータベースにアクセスし,ニュー・へブン地区内のOnStar対応車をすべてリストアップできる。

 ナンバー・プレート読み取り装置は,自動車のナンバー情報を集める。それと同じように,我々があちこちに残す電子的な“指紋”も自動的にデータベース化されうる。集められたデータは永久に保管され,いつか警察が捜査に利用するだろう。

 大規模捜査がプライバシや市民の自由に及ぼす影響は計り知れない。しかし残念ながら,この種の問題を議論すると,「安全確保のためにどれだけプライバシをあきらめればよいのか」といった質問にすり返られることが多い。これは間違っている。そういう問題ではないのだ。警察があらゆる技術を自由に使えるのなら,我々全員が安全になることは明らかだ。我々に必要なのは乱用を防ぐ仕組みであり,無実の人に不合理な負担を与えないようにする仕組みだ。

 これまで米国では,「警察が必要とする利益」と「市民の権利」のバランスが取られてきた。ナンバー・プレート自体が,このバランスの“産物”である。1900年代初頭に起こった議論を振り返ってみよう。当時警察は,所有者の氏名が書かれた飾りプレートをすべての自動車に取り付けるよう提案した。警察は,「犯罪発生時に車を追跡しやすくなる」と主張した。市民の自由を主張するグループは,「所有者全員のプライバシが侵害される」という理由でこの案に反対した。そこで両者は妥協した。ランダムな文字と数字の組み合わせを使い,警察が自動車の所有者を特定できるようにしたのだ。故意にシステムを扱いにくく設計することで,警察の必要性と市民のプライバシ権とのバランスを取った。

 米国憲法の修正第4条で規定されている捜査令状に関するルールも,両者のバランスをとったものになっている。例えば,電話の盗聴は必要最低限しか許されない。警察が電話回線を盗聴できるのは,捜査対象の容疑者が電話で話しているときだけに制限されている。

 ナンバー・プレート読み取り装置については,「犯罪と関係がないデータは即座に消去して保存しない」という,プライバシに関する明確な保護規定が必要だ。あらゆる人物の運転データを集めることに対し,警察は合法的な必要性を持っていない。必要だと思われるもうひとつの保護規定は,車の所有者に検索用データベースへのアクセス権を与え,所有者に関する情報間違っている場合には,異議を申し立てられるようにすることだ。

 時代は進んでいる。例えば,現在,犯罪を抑止するために罰則は厳しく規定されている。実際に犯罪者を捕まえることは難しいためだ。だが,容易に検挙できるようになれば,罰則の重さを調整する必要が生ずる。警察が犯罪の発見を自動化できれば,罰則を与える理由は失われるだろう。例えば,信号無視を見つけるカメラとスピード違反を見つけるカメラは,違反を見つければ“違反点数”といった罰則は考慮せず,自動的にその運転者へ召喚状を発行するようになる。

 大規模調査は,警察がこれまで行ってきた捜査活動の効率を高めただけのものではない。最新技術で実現可能となった新たな“警察権力”である。将来は,さらなる最新技術を取りいれることで,(警察にとって)より使いやすいものとなるだろう。ほかのあらゆる新しい警察権力に対する場合と同じく,我々は社会の一員として,警察権力の行使を管理するルールを確立するために,積極的な役割りを果たす必要がある。そうしないと,これまでにない強い権力を警察に渡してしまうことになる。

New Haven Registerに掲載されたオリジナル記事:<http://www.nhregister.com/site/news.cfm?...>

Copyright (c) 2004 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「License Plate "Guns" and Privacy」
「CRYPTO-GRAM October 15, 2004」
「CRYPTO-GRAM October 15, 2004」日本語訳ページ
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテック コミュニケーションズと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。