オスロにある「ムンク美術館」からムンクの絵画が盗まれた事件は,興味深い問題を浮き彫りにしている。セキュリティの確保と,有名な美術品の公開には相反する要件が存在するので,両立することが難しいという問題だ。例えば,スミソニアン博物館が「ホープ・ダイヤモンド(訳注:所有者に不幸をもたらすという呪われたダイヤモンド。45カラットある)」に施しているセキュリティ対策は,その価値に見合うものではない。ほとんどの美術館には,セキュリティ・レベルを高めるための予算がない。

 これは興味深いセキュリティ問題だ。美術館の展示物は貴重品であり,なかでも芸術作品の価値は計り知れない。小さな美術館においては,展示物の価値は低いものの転売しやすい(米国の侵攻後にイラクの美術館から略奪されたメソポタミアの工芸品がその一例だ)。しかし,もっと価値の高い展示物――特に芸術作品は,すぐに盗品だと分かってしまうので,盗む価値は低くなる。そうした盗品を欲しがるのは,決して作品を公開しない,非常に特殊な収集家に限られる。

 美術館の展示物は,盗まれて“身代金”を要求されたり,抗議行動の一環として破壊されたりすることもある。

 このことから,芸術作品のセキュリティは美術館内で確保する必要があると分かる。しかしほとんどの美術館には,こうした作品に必要とされるレベルのセキュリティを導入する余裕がない(損害保険の保険料ですら,予算を上回ることが多い)。それに,展示物は公開する必要があるので,セキュリティの確保はさらに難しくなる。

 芸術作品を守るには,優れた鍵やビル警報システム,場合によっては24時間体制の監視が適切だろう。これらの方法はほとんどの場合うまく機能する。ただし,驚くようなセキュリティ上の大失敗もときおり発生する。

 さらに悪いことに,多くの美術館が閉館後にも堅牢なセキュリティを確保するようになると,窃盗団はより暴力的な「破壊して奪い取る」という手段を選ぶようになる。

http://abcnews.go.com/wire/Entertainment/...

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/3588282.stm

Copyright (c) 2004 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「Security Notes from All Over: Museum Security」
「CRYPTO-GRAM September 15, 2004」
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテック コミュニケーションズと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。